漢方で考える病気になる原因とは
前回の記事では、病気の原因となる六淫(りくいん)と七情(しちじょう)について紹介しました。
今回は、六淫・七情を含めた病気の原因についてくわしく紹介します。漢方では病気が起こる原因は、外因・内因・不内外因(ふないがいいん)・病理的産物の4つがあると考えています。前回紹介した六淫は外因で、七情は内因です。
外因とはカラダの外に、内因はカラダの中に病気の原因があることを意味しています。不内外因は、飲食によるものや疲労などを意味し、病理的産物は、血の流れが悪くなる「瘀血」(おけつ)とカラダの水分が代謝障害によって滞ってしまった病的なもの「痰飲」(たんいん)があります。今回は、この4つの病気の発生メカニズムについて紹介します。
外因とは
外因とは六淫のことで、風邪(ふうじゃ)・寒邪(かんじゃ)・暑邪(しょじゃ)・湿邪(しつじゃ)・燥邪(そうじゃ)・火邪(かじゃ)のことをいいます。
6つの邪気は、カラダを守る衛気(えき)が弱くなると、外部から侵入するため病気にかかりやすくなります。衛気とは、外からの刺激(邪気)からカラダを守る働きのことをいいます。
六淫(りくいん)の特徴
漢方では、気候の変化は、「風・寒・暑・湿・燥・火」があり、これを「六気」(ろっき)と呼んでいます。これらは、植物が育つため、人や動物が生きていくためには欠かせないものです。ところが、六気は過剰・不足したりすると、病気の原因になることがあります。これを六淫といいます。六淫は前回紹介したとおり、風邪・寒邪・暑邪・湿邪・燥邪・火邪があり、これらの邪気は、カラダの表面の皮膚だけではなく、毛穴・鼻・口から侵入することにより、カラダの中にも影響を与えます。例えば、秋は燥邪の影響により、乾燥した空気が口からカラダの中に入るため、喉が痛くなったり、便秘になったりします。これらの邪気は、単独だけではなく、2種類以上が同時に侵入する場合もあります。例えば、風は一年中吹いているため、秋は燥邪と風邪が一緒に侵入することもあります。
内因とは
内因とは「喜・怒・憂・思・悲・恐・驚」の7つの感情「七情」(しちじょう)のことをいいます。
七情はそれぞれ適度の量であればカラダに良いもので、そのもの自体は病気の原因になるものではありません。七情はカラダの中で生まれたものなので、直接内臓を損傷したり、内臓の気の流れにも異常を起こすことがあります。
七情(しちじょう)の特徴
漢方では、人には「喜・怒・憂・思・悲・恐・驚」の7つの感情があり、これらはカラダの中の臓腑に影響を及ぼすことがあると考えています。七情は正常であれば、カラダの中の気血のめぐりはよくなり、健康にもいいと考えます。ただし、7つの感情が過剰に反応したり、長時間持続したりすると、カラダにダメージを与えることがあります。また、七情は五臓と関係が深いため、七情に変化があると五臓に症状があらわれ、五臓に変化があると七情に影響を与えます。例えば、怒りすぎると肝の気が高くなるため、頭痛・めまい・目の充血などの症状が起こります。
不内外因(ふないがいいん)とは
不内外因には、飲食と労逸(ろういつ)があります。
飲食には、食べ過ぎ・飲み過ぎまたは、偏った食事があり、労逸には働きすぎ、性生活の過多、運動不足などがあります。健康的な生活を送るためには、良質な食材で作ったバランスのよい食事と、適度な運動、休養をとることが大切だと考えています。
不内外因の特徴
漢方では、体調が悪くなったら漢方薬を飲むだけでなく、普段の食事内容も整えることが必要だと考えています。例えば、食べすぎ飲みすぎにより胃腸の働きが悪くなると、気血のめぐりも悪くなり、病気になりやすくなります。また、不衛生なものを食べると、胃・大腸に影響を与えるため、伝染病などを引き起こす原因にもなります。偏った食事は、カラダの中の陰陽のバランスが崩れます。例えば、冷たいものばかりを摂っていると気血のめぐりが悪くなるため、冷え性だけでなく他の病気を引き起こす原因にもなります。
労逸の労は働きすぎ、逸は何もしない状態のことを意味します。労逸には、その他に性生活の過多、運動不足も原因のひとつと考えます。例えば、仕事や勉強などのプレッシャーによる精神疲労や、長時間の事務作業などによる運動不足は気血のバランスを崩す原因のひとつです。漢方の古い書物「黄帝内経(こうていだいけい)」の言葉のひとつに「久視傷血」(きゅうししょうけつ)といった言葉があります。これは、長時間パソコンなどの作業で目を使い続けると、肝に必要な血が不足するため、目が疲れたり、乾燥したりするといった意味です。
病理的産物(びょうりてきさんぶつ)とは
病理的産物には、痰飲(たんいん)と瘀血(おけつ)があります。
痰飲は、カラダの中にある水分が代謝障害によって滞ってしまった病的なもののことをいいます。瘀血は、カラダの中の血液が滞り、血液の流れが悪くなることをいいます。
痰飲(たんいん)の特徴
痰飲とは、痰と飲それぞれに意味があり、痰は粘り気のある濃厚な水液で、飲は薄い透明な水液のことを意味します。痰飲の多くは、先ほど説明をした六淫・七情・飲食などで起こります。痰飲は、気血の流れを止めるため、臓腑の働きが悪くなります。例えば、痰飲が五臓の心を妨げると、めまい・吐き気・動悸・精神疾患・意識不明などの症状を起こします。
瘀血(おけつ)の特徴
瘀血の瘀とは滞るという意味です。瘀血は、カラダの中の血のめぐりが悪くなるため、さまざまな臓腑に影響を与えます。例えば、脾が瘀血の影響を受けると、吐血をしたり大便が黒くなったりします。瘀血の多くは、「気虚」気(エネルギー)不足や「気滞」気のめぐりが悪くなることが原因です。瘀血は、同じ場所に痛みがある、顔色が暗い、冷えのぼせがあるなどの症状が起こります。
病気になる原因は、外因・内因・不内外因・病理的産物があります。漢方では、西洋医学のように病気の症状だけでなく、病気になる環境や感情、生活習慣などを知ることが大切だと考えています。カラダの不調が続く場合は、まず自分の環境や生活習慣を見直してみるのもひとつの方法です。