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漢方のイメージを変える活躍で大人気の漢方家・櫻井大典さんの連載がスタートします。櫻井さんは、漢方をわかりやすく説く著書を多数執筆。SNSでも積極的に発信し、Xのフォロワー数は18万人超と、世代を超えて幅広い支持を集めています。この連載では、櫻井さんのやさしい語り口で、すぐ実践できる日々の養生法をお伝えしていきます。
病気や不調がでない体をつくるのが漢方の養生
養生とは、体に不調があらわれないよう準備しておくことです。西洋医学は、病気になってからの対処法ですが、漢方では日々の養生により、そもそも病気にならない体を目指します。不調の出にくい心身を整え、毎日を心地良く過ごしましょう。今回は、春の季節に心がけたい養生のポイントをご紹介します。
風にほんのり暖かさがまじってくると、春の訪れを感じますよね。ただし、春風は「風邪(ふうじゃ)」という邪気も運んでくるので、気をつけなくてはいけません。
自然の変化が過剰になると病気のもと「外邪」に
風邪は、漢方で病気の元とされる6つの外因「風・寒・暑・湿・燥・火」のひとつです。もともとは自然の変化のことですが、過剰になると体を侵す「外邪(がいじゃ)」になります。そのひとつが、風の邪気=風邪です。
風邪の特徴として、ひとつは上半身を侵しやすいこと。もうひとつは、移りやすいことです。体でどんなことが起きるかを説明していきますね。
風邪は、他の邪気を連れて体を襲うとされます。風邪が「寒邪(かんじゃ)」を連れてくると、寒気がして、ふつうのカゼのような症状が現れます。また、鼻水が出たかと思えば、頭痛がしたりと、症状が出ては消えてコロコロ変わります。
あるいは風邪が「燥邪(そうじゃ)」を連れてくると、乾いた咳が出たり、喉の乾燥に。また「湿邪(しつじゃ)」を連れてくると、下痢など胃腸風邪のような症状になるのです。
長袖と「衛気」で風邪の侵入を阻止する
風邪が体を侵すときの、経路のひとつが“毛穴”です。ですから風邪を防ぐには、まず外気に肌をさらさないこと。暖かくなったからとすぐ半袖にならず、長袖を身につけたり、かるく1枚羽織って、風邪に侵されやすい上半身を守りましょう。
体の中からの防御としては「衛気(えき)」を養うこと。衛気は体を動き回るエネルギーで、元気や気力と言われるものの仲間です。
衛気が地球のオゾン層のように、体の表面を覆っていると、外邪の侵入から体を守ってくれます。この衛気を生み出すもとになるのは、空気と食べ物です。
まずは、しっかりと呼吸をする。寒い冬の間は体が縮こまり、猫背になりがちです。すると呼吸が浅くなります。体を伸ばして大きく息を吐き、思い切り吸いましょう。休憩時間、作業の合間、スマホから顔を上げたとき……意識して「深呼吸」をクセにして。
日々の食事は温かく薄味のものを
食べ物では、何を摂るかの前に、胃腸を整えておくことが大切です。いくら体に良いものを食べても、胃腸が弱っていては消化や吸収ができません。
胃腸が弱る原因になるのが「肥・甘・厚・味」の食べ物。脂っこいもの、甘いもの、味の濃いものという意味です。また漢方では、生もの、冷たい物、過剰な水分も、胃腸 を弱らせるとされます。衛気を養うには、これらを控え、温かく薄味のものを日々いただきましょう。
「補気(ほき)」といって、気を補う働きをする食材もあります。特に衛気を養ってくれるのが「もち米」。もちといえばお正月のイメージですが、風邪対策として春にも食べてほしいですね。ただし、もちは消化がしにくいので、胃腸が弱っているときは控えましょう。アトピー性皮膚炎や肌荒れの症状のときも避けてください。
もちろんよく噛んで、腹八分目といったことも守って。ちなみに、腹八分目の目安は、お腹が苦しいほど食べないのはもちろんのこと、食後にだるくなったり眠くなったりしない量とされています。そして夜は早く寝る。
こうした養生で衛気を整え、春の風邪を寄せつけない体を保ちましょう。
春は伸び伸び過ごすのがふさわしい
もう少し、春の養生についてお話しさせてくださいね。春は心も体もゆっくりと、伸び伸び過ごすのが大切です。
春は「水・金・土・火・木」の五行で「木」の季節。木は上に上にと成長し、伸びやかに枝葉を茂らせます。だから制約されるのを嫌うのです。人間もガチガチと決め事に縛られず、ゆる~くしているのが、春にふさわしい過ごし方です。
服装はふわっとしたものがよく、ぴったりとタイトな服を着ないこと。髪をひっつめない、キツイ帽子もかぶらない。ゆるい格好をして、朝起きたらゆったり庭や近所を散歩しましょう。深呼吸もして。
これは自分自身にだけでなく、人づき合いでも言えることです。漢方の古典『黄帝内経(こうていだいけい)』に、春の処し方が書かれています。その一説に「万事伸び伸びとさせて、急ぐことなく、与えて取り上げることなく、褒めても罰することなく」とあります。
自分だけでなく、周囲にもおおらかに。もし人に対して厳しくなってしまうなら、それは自分の心がカチカチだから。まだゆるめ方が足りないと自覚しましょう。
春の季節は伸び伸びと芽吹き、その芽は夏に成長し、秋に収穫して、これを元に厳しい冬を乗り越え、また次の春に種をまく。こうして人の1年はつながっているのです。
健康で豊かな1年間と、それに続く長い人生のために、春の養生を取り入れて、気持ちのよい毎日を過ごしてください。

漢方コンサルタント、国際中医相談員、日本中医薬研究会会員。
アメリカ・カリフォルニア州立大学で心理学や代替医療を学び、帰国後、イスクラ中医薬研修塾で中医学を修める。漢方セミナーを開催し、年5000件以上の相談を受けて漢方での健康づくりの普及に務めている。プライベートでは、好きな和菓子や夜更かしの楽しみと養生を両立。趣味のバイク一人旅は、愛娘のイクメン作業優先で自粛中。著書に『まいにち漢方―体と心をいたわる365のコツ 』『病気にならない食う寝る養生』『二十四節気の暦使い暮らし』など多数。
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撮影(トップ画像)/長谷川梓
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