目次
月経前になるとイライラする、気分の落ち込み、胸の張りなどに悩んだことはありませんか?これらの症状はPMS(月経前症候群)といいます。PMSの中でも近年あらたな問題になっているものにPMDD(月経前不快気分障害)があります。PMDDは月経前に心身の状態が不安定になるPMSの中でも、特に心の不安定さがより強くなる状態といわれています。
内閣府男女共同参画局の調査によると、20~30代女性の7~8割は月経に関するなんらかの不調を感じていると報告されています。その中でも、月経前の不調は20代で28.6%、30代は24.2%の方がいます。多くの方が月経について悩みを抱えていることがわかります。
今回は、月経前の症状や漢方で考えるPMDDの原因や改善方法、漢方薬について紹介をします。
参照:内閣府男女共同参画局「男女の健康意識に関する調査」(平成30年)
(2)月経に関わる不調の状況
https://www.gender.go.jp/research/kenkyu/pdf/ishiki_4.pdf
PMDDとPMSの違い
PMSは、月経前の1~7日ぐらいにわたって、身体的・精神的なさまざまな症状が現れ、月経が始まると自然に治まります。
例えば、身体的症状では、食欲が増える、胸がはる、肌が荒れるといった症状が起こります。精神的症状では、イライラする、何もないのに涙が出る、集中できないといった症状が起こります。
PMDDは、PMSの中でもとりわけ精神的症状が強く現れる状態のことをいい、仕事に行けない、家から出られないなど、日常生活に大きな影響をもたらします。PMDDは次のような症状が現れます。
- ・疲れやすく、やる気が起こらない
- ・突然悲しくなる
- ・過眠または不眠症状が起こる
- ・集中力がなくなる
- ・なにごとにも興味がなくなる
これらはあくまでも一例です。その他にも症状がある場合は専門家にご相談ください。
PMDDの原因
一般的に考えるPMDDの原因ははっきりと解明されていませんが、月経前に起こる女性ホルモンのひとつである黄体ホルモン(プロゲステロン)の変化が大きく関係していると考えられています。また、近年の女性の社会進出により、ストレスや対人関係などによる環境的な要因も原因のひとつだと考えられます。
PMDDの有病率は、日本では1.8~5.8%※1、海外では2~8%※2と報告されています。
症状が重いにもかかわらず、多くの人が我慢しており、病院を受診しない患者さんがいるため、PMDDの診断を受けていない人が多いと考えられます。
<参考文献>
※1 DSM-5精神疾患の診断・統計マニュアル(医学書院): 171-174, 2014
※2 Matsumoto T, et al. Gynecol Endocrinol. 29: 67-73, 2013
漢方で考えるPMDDの原因は、五臓の「肝」と気血水では「気」の働きに関係があると考えます。
肝は、全身の気をめぐらせ、精神状態を安定させる働きがあります。肝の気が滞ると、精神状態は不安定になり、気分が落ち込んだり、逆に怒りっぽくなったりすることがあります。
気は、人が生きるために必要なエネルギーです。カラダの中の気が滞ると、イライラする・落ち込むといった症状が起こります。気血水では、気滞タイプだと考えます。
気血水の考え方は、「漢方の基礎知識(気血水とは)」を参考にしてください。
PMDDを生活の中で改善するためには
PMDDを改善するためには、ストレスや緊張などを解消させることが大切です。
なぜなら、イライラや気分の落ち込みは、気の流れと関係しているからです。カラダの中の気の流れをよくすることにより、血液の循環をよくしたり、カラダを温めたり、カラダの外からの邪気の侵入を防ぐことができます。まずは、普段の生活や食生活を改善していきましょう。
・イライラしたり、不安になったら深呼吸をする
深呼吸は新鮮な空気をカラダの中にめぐらせることにより、全身に栄養を行き渡らせることができます。まずは、椅子に座ってお腹に手を当ててみましょう。深呼吸は、きちんと息を吐くことが大切です。ゆっくり3秒数えながら息を吐き出します。その後、同じく3秒かけて鼻から息を吸い込みましょう。これを5分ほど繰り返します。
・気を消耗しないように注意する
漢方による「七情」では、怒りすぎたり、心配しすぎたりすると、病気の原因になると考えています。元気がない、やる気が起こらない気虚タイプの方は、気を消耗しないようにすることが大切です。
・シソなど香りのよい野菜を食べる
気のめぐりをよくするためには、香りのよい野菜がおすすめです。シソは、気のめぐりをよくし、胃腸の働きを整えます。お腹のはりや食欲不振などの症状にもおすすめです。
PMDDの諸症状に使われる漢方薬とは
PMDDの諸症状に使われる漢方薬には次のようなものがあります。それぞれの症状に合わせた漢方薬が用意されています。
・PMDDによるイライラなどの精神症状に用いる漢方
■月経前のイライラや不安に:加味逍遙散(かみしょうようさん)
月経前の精神症状などに悩んでいる方によく利用される漢方薬です。体力は中等度以下で、イライラしがちで怒りっぽい、のぼせ感がある、不安を感じる方に利用されます。漢方では肝に異常があり、気滞・気逆、血虚・瘀血タイプの方に向いています。加味逍遙散は肝の気血のめぐりが悪化することによって生じた熱を冷まし、気血のめぐりを整え、不足した血を補う働きがあります。血行を促進することで冷え症の改善にも利用されます。
■ストレスがたまりイライラする・気分が落ち着かない方に:抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)
体力は中等度で、消化器が弱く、イライラしたり、気分が落ち着かない方に向いている漢方薬です。漢方では肝に異常があり、特に気滞タイプの方に向いています。抑肝散加陳皮半夏は肝の高ぶりを抑え、気血のめぐりをよくしたり、胃腸の機能を整える働きがあります。神経が高ぶり眠れない方にも利用されます。
■ストレスで寝付きが悪い、色々考えて眠れない方に:柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)
体力は中等度以上で、寝付きが悪い、眠れない、動悸、精神不安などがある方に向いている漢方薬です。漢方では気滞タイプの方に向いています。柴胡加竜骨牡蛎湯は気をめぐらせ、体にこもった熱を冷ますとともに、心を落ち着かせて精神不安などを改善する働きがあります。便秘がある方にも利用されます。
監修
Fクリニック沖縄
院長 多和田 利香先生