[医師に聞く]家族のためにも知っておこう!がん患者・高齢者のフレイル (弱り)によく使われる漢方薬

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[医師に聞く]家族のためにも知っておこう!がん患者・高齢者のフレイル (弱り)によく使われる漢方薬

目次

生涯で2人に1人ががんになる時代。がんが他人事ではない身近な病気になるとともに、重視されるようになってきたのが、がん患者の生活の質の向上であり、対策のひとつとして注目を集めているのが漢方薬です。

がんと漢方薬について、がん患者を含む高齢者の心身のフレイルについて、国立がん研究センター研究所 がん患者病態生理研究分野 分野長の上園保仁先生にお話をお伺いしました。

がん患者の悩み改善や体調管理に、漢方薬が適している理由とは?

―がんが「不治の病」だったのは過去の話で、現在は、がんを克服する人、がんと付き合いながら健常者と変わらない生活を送る人が増えています。

上園先生:早期発見技術や治療方法の進歩によって、今やがんは「治る病気」になってきました。そんな中で、これまで以上にがん患者の生活の質に対する配慮が求められています。がんは、病気のつらさに加え、抗がん剤の副作用、術後の体調不良による苦痛も大きく、痛み、だるさ、吐き気、しびれなど、いろいろな悩みをもたらします。そういった苦痛を和らげ、前向きに、その人らしく過ごすことができるようにすることも治療の一環であるという考えが医療の現場に浸透しつつあるのです。そして、その対処法の1つとして漢方薬への期待が高まっています

―素朴な疑問ですが、なぜ、漢方薬なのでしょうか?

上園先生:漢方薬の多くは、複数の生薬が配合されている多成分系の薬剤であるため、複合的な力を発揮できるという利点があります。たとえば、がん患者が訴える苦痛で特に多いのは「ご飯が食べられなくてつらい」という声です。食べられなければ、元気が出ません。だんだん痩せていき、体力が落ち、気力も落ち、だるかったり、フラついたり、あちこち不調が出てきます。

「食べられない苦痛」にはそういったことも含まれているため、胃腸薬ひとつで即解決とはいかないもの。そこで漢方薬の出番です。さまざまな働きを持つ生薬が含まれているので、足りないものを補ったり、乱れている部分を整えたり、多面的ケアをして、食欲増進を含めて全体的に調子を上げていく治療が可能なのです。

“上園

―漢方というと伝統医療のイメージが強いですが、現代医療のニーズにもマッチしているのですね。

上園先生:漢方のルーツは、皆さんも良くご存知の通り中国です。それが海を越えて日本に伝わったのが7~8世紀の頃。江戸時代に入って、日本人の特性に合わせて改良されて誕生したのが漢方薬です。昔の薬ですから、当然ながら科学的な裏付けはなく、使う際の根拠となるのは経験や伝承でした。近年、科学技術の革新によって研究が進んだことから、なぜこの薬がこの症状に効くのかといったことが次々に解明されているのです。

がんの治療への応用という点では、2007年にがん対策基本法ができ、国が、がん患者のフォローに力を入れるようになったことが大きいですね。この10年ほどで、がん患者の生活の質の向上に対する漢方薬の研究が一気に進み、さまざまな検証結果から抗がん剤の副作用や手術後のケアに有効な処方の目星もついてきました。

―がんが治る病気になったからこそ、漢方薬の存在感が増してきた、というわけですね。がん患者の体力低下には、どのような処方が挙げられますか?

上園先生:不足したものを補う「補剤」と呼ばれる漢方薬には、総じて弱った体力を増強し、間接的に疾患を改善に向かわせる効果があります。補剤のひとつ「六君子湯(りっくんしとう)」は、8種類の生薬が配合されているのですが、何とも絶妙なバランスで食欲促進作用に力を発揮します。また、よく似た作用を持つ「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」も、同様の効果が期待できると思います。

高齢者のフレイル(カラダの弱り)にも漢方は有効?

―体力低下は、がん患者に限らず起きることです。たとえば、昨今、高齢化社会における優先課題としてクローズアップされているフレイルに対するケアにも、漢方薬は有効でしょうか?

上園先生:そうですね。原因がわからない、何となくの不調への対応は漢方の得意とするところですから。

「フレイル」は直訳すると「虚弱」という意味で、カラダが弱った状態を指しているのですが、ひと口にカラダが弱るといっても、体力的に弱ることもあれば、気持ちが滅入って弱ることもある。また、社会との関わりが薄れることから弱っていくケース、がんなどの病気と結びついて弱っていくケースと、本当にさまざまです。ひとつの薬で対処するのは難しく、複数の生薬から成り立っている漢方薬が頼りになります。

多くの方は「フレイル」といわれてもピンとこないかもしれませんが、いうなれば、「元気」と「元気でない」の間のような状態、つまり「未病」の状態なのです。未病を治すのは漢方の基本的な考え方であり、そういった点からも、漢方薬との相性は良いと思います。

―よく使われている処方は何でしょうか?

上園先生:あれも、これも足りない状態ですから、総合的に補える薬が適切で、カラダと気持ちの両面から元気を補える「人参養栄湯」は良い選択だと思います。

人参養栄湯」には12種類の生薬が入っています。たくさん入っているから良いというわけではありませんが、この12種類の配合が素晴らしいのです。私たちが行う実験に、1種類だけ生薬を抜いてみて、効果を比較するというものがあります。人参養栄湯でその実験を行うと、どれかひとつが抜けてもダメ、ちゃんと理由があって12種類が選ばれていることがわかります。医学のノウハウなどなかった時代に生まれた薬なのに、この配合になっているというのは本当にすごいことです。

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―いろいろなことがわかってくると、より納得して使うことができますね。

上園先生:その通りです。生薬の単体の効能に加え、組み合わせによる相乗効果も期待でき、1+1が2ではなく、3や5、場合によっては10にもなり、可能性を秘めていることが漢方薬の魅力です。

ただし、同じ薬を飲んでも、効く人、効かない人がいるのも事実です。もしも効かないと感じたら、他の漢方薬を試してみましょう。医療用漢方薬は148品目ありますから、自分に合うものを探していけば良いのです。効く、効かないを判断するタイミングは、服用開始から2週間くらいが大よその目安です。

身近ながん患者、高齢者に接する際に気にかけることは?

―最後に、がん患者や高齢者の家族に接する際に、どんなことを気にかけてあげると良いでしょうか?

上園先生:やはり、相手の気持ちになって考え、行動することに尽きると思います。もし自分がその状況だったらしてほしいことを進んでしてあげる。要は、どこまで相手の気持ちになれるかです。家族ゆえに遠慮がないぶん、うまくいかないことも時にはあるでしょう。でも、それはもう仕方ないと割り切って、「そういうこともあるよね」と流す大らかさもまた必要です。

―生真面目過ぎるのも良くないということですね。

上園先生:はい、本人も家族もしんどくなります。それから、情報収集をサポートしてあげることも大切です。漢方薬についても、知らなければ選択肢にのぼりません。緩和ケアは、早い段階から取り入れるほど有効ですので、ぜひ漢方薬を知っていただき、試してみたい方は医師にご相談されることをおすすめします。

それから、フレイルについては、当人よりも人から見た方が気づきやすいという面があります。歩く速度、食事の量など、ちょっとした変化を気にかけてあげましょう。「フレイル」は放置しておくと寝たきりになってしまう危険なゾーンではあるのですが、きちんと対処をすれば健常な状態に戻れます。早く気がついて対処することが肝心で、そのために家族が果たす役割は大きいと思います。

上園 保仁先生

この記事で語っていただいた先生
上園 保仁先生
国立がん研究センター研究所・がん患者病態生理研究分野 分野長・先端医療開発センター 支持療法開発分野 分野長

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