【小林麻利子さんに聞く】質の良い睡眠って、どうすればとれるの?

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なかなか寝付けない、途中で目覚めてしまう、起きた時にスッキリ感がない、日中眠くなってしまう……。そんなお悩みをよく聞きます。そこで、質の良い睡眠のとり方を睡眠改善インストラクターで、長年マンツーマンで睡眠改善カウンセリングを行っている小林麻利子さんに聞きました。

「質の良い睡眠」ってどんな睡眠?
眠ってすぐの深い眠りが大事

睡眠についての悩み、不安を持っている人は多く、それらの悩みの解決法のひとつが、「質の良い睡眠をとる」ことです。では、「質の良い睡眠」がとれたかどうか、どうやって知ればいいのでしょうか?

小林さんのカウンセリングでは、「私はよく眠れている」あるいは「あまり眠れていない」といった、主観評価と、実際の睡眠中の脳波を比較すると、必ずしも同じではないといいます。最近では自宅で簡単に脳波を測ることができるようになりましたが、すぐに測れない方のために、まずは下記の4点を確認することをおすすめしています。

・寝つきがいい
・寝起きに熟睡感がある
・睡眠途中で何回か起きない
・午前中に眠気を感じない

もちろん、先述のとおり、主観評価と客観評価はイコールではないので、上記4点が問題なかったとしても、なかなか痩せない、肌荒れするといった美容の課題や、風邪をひきやすい、集中力が続かないなど体や脳の課題がある方は、睡眠の質に問題がある可能性があります。

寝つきがいいいからといって
深い眠りが得られているわけではない

寝つきについては、加齢とは無関係であることもわかっているので、寝付きに課題がある方は、何歳からでも改善が可能です。しかし、ただ寝付ければいいわけでもありません。

通常、寝始めてから、だいたい30分以内にノンレム睡眠のレベル4という最も深い眠りまでスムーズに到達し、レベル4から3,2,1とちょっとずつ眠りが浅くなり、レム睡眠に到達する、大体90分周期で4~5回ほど繰り返すことが大切です。

しかし、なかにはノンレム・レベル3と4が全く出ていないという方や、寝ついてから1時間とか2時間後に、ようやく深い眠りが得られる方もいるのです。

寝つきがいいからと過信しすぎないことも大切です。

ノンレム睡眠は「脳の眠り」
レム睡眠は「体の眠り」

レム睡眠のレムというのは、Rapid Eye Movementの略で、瞼は閉じながらも眼球が素早く動いていることからこう略されました。それに対してノンレム睡眠は、レム睡眠ではないという意味です。

ノンレム睡眠は、脳の活動が低下して深い眠りが得られている状態のため「脳の眠り」ともいわれます。脳以外では、成長ホルモンが分泌されたり、免疫機能が活発になり、さまざまな臓器や機関、筋肉、骨、皮膚などの疲労を回復させます。

ノンレム睡眠は、深い睡眠であるレベル3や4だけがいいと思われがちですが、実は浅いノンレム睡眠(1あるいは2)も私たちの体にとっては大切です。ダイエットの観点からお伝えすると、糖代謝が行われるタイミング。

睡眠時間が適切な時間確保されると、短い睡眠時間よりも、浅いノンレム睡眠が増えますので、ダイエット効率も良くなるともいえますね。

それに対してレム睡眠は、体は休息して、脳は起きている時に近い脳波状態であるため、「体の眠り」ともいわれます。

レム睡眠は、精神的な機能の回復に非常に大事で、感情の整理をしたりします。レム睡眠の出現が少ない場合は、情緒面が不安定になったり、イライラしたり、憂鬱(ゆううつ)な気持ちになりがちなことがわかっています。

また、前日の情報をまとめたり、記憶にも関係するので、例えば、なかなかものが覚えられないとか、集中力が続かない、論理的思考が難しいという場合、レム睡眠がとれていないからという可能性があります。さらに、レム睡眠が少ないと、自律神経の乱れが出やすくなります。

レム睡眠が増えると深い眠りのノンレム睡眠も増えます。ですから、「自分はショートスリーパーだから大丈夫」などと言わないで、きちんと睡眠時間も確保することが大事です。

レム睡眠を増やすためには、勉強や仕事で頭をたくさん使うこと。逆に、ノンレム睡眠を増やすためには、体を使った活動をたくさんすること。

頭も体も使った日には、睡眠の質がぐんと上がるはずです。

良質な睡眠で得られるメリットと
良質な睡眠ができずに招くデメリット

良質な睡眠をとるとどんなメリットがあるのでしょう。

・日中、集中して活動できるので生産性が上がる
・免疫力が上がるので健康でいられる
・代謝がちゃんと行われるのでエネルギッシュに活動できる
・情緒面が安定するのでいつもハツラツとしていられる
・新陳代謝がきちんと行われるので美肌や美髪が保てる

しかし、長い間睡眠に問題があるとさまざまな不調が現れます。

例えば、集中睡眠障害を起こすと、二型糖尿病の発症率が入眠困難者の場合2.98倍増え、途中で覚醒を何回かしてしまうという睡眠維持障害では2.23倍、発症リスクが上がるという研究結果が出ています。

(「日本における睡眠障害の頻度と健康影響
土井由利子 保健医療科学 2012 Vol.61 No.1 p.3-10より)

また、睡眠に問題がある人は、アルツハイマー型認知症の発症率は1.55倍、認知機能の悪化は1.65倍、前臨床症状は3.78倍になると発表されています。

(Bubu OM, et al., 2017)

さらに、なかなか眠れないという方は、高血圧症の発症率が1.96倍で、途中覚醒、睡眠維持障害の方は1.88倍も発症率高くなるということが分かっています。高血圧を抱えている方は、眠りの質が悪いことが原因かもしれません。

(「持続的な不眠症は、日本の男性労働者における高血圧の予測因子である
J Occup Health. 2003 年 11 月;45(6):344-50. doi: 10.1539/joh.45.344.より)

睡眠時間の長さも、病気の発症に関わっています。東北大学が約2万4,000人の女性を対象に行った研究では、平均睡眠時間が6時間以下の人は、7時間以上寝ている人より乳がんのリスクが1.6倍高かったと報告されています。逆に寝すぎも問題で、8時間睡眠は7時間睡眠よりも乳がんリスク、乳がんの発症率は高くなっています。

(「睡眠時間と乳がんリスク:大崎コホート研究
2008年11月4日;99(9):1502-5. doi: 10.1038/sj.bjc.6604684. Epub 2008年9月23日より)

令和元年の『国民健康・栄養調査』で、1日の平均睡眠時間が発表されており、6時間未満の割合は男性 37.5%、女性 40.6%で、日本人の十分な睡眠の確保は重要な健康課題としています。

体内リズムを味方につけて
朝食内容と夕食時間に配慮する

では、どうすれば良質な睡眠がとれるか……。先ほど、脳と体をたくさん使えばいいと書きましたが、それだけではありません。1つは、体内リズムを利用することです。

人間は太古より太陽が昇るとともに目覚め、活動を始めてきたという長い歴史があります。朝の太陽を浴びると、精神を安定させるホルモンのセロトニンが分泌され、「眠りホルモン」といわれるメラトニンの分泌が抑えられます。そして体の内側である深部体温がどんどん上昇。

そして体温がもっとも高い14時〜18時を過ぎ、就寝時刻2〜3時間ほど前から、しだいに深部体温が下がっていき、セロトニンがメラトニンに変わって眠気を催していきます。

このように、セロトニンとメラトニンは体内リズムをつくる物質なので、この仕組みに合った生活をすることが睡眠の質を高めることです。

朝起きたらすぐに太陽に当たればいいと言われても、もしも曇っていたり、雨が降っていたら? その時は、人工の光を利用するといいでしょう。

例えばリビングを750ルクス以上の白い光を放つライトにすることです。自宅のシーリングライトは大きくても500ルクスほどなので、天候が悪い日が続くと、鬱鬱としたり、睡眠に課題が生じがちな場合は、人工光を発する器具などを用意するとよいでしょう。

セロトニンの前の形は「トリプトファン」というアミノ酸(たんぱく質)ですから、朝ごはんでたんぱく質をちゃんと食べることで、体内リズムを作りやすくなります。また、女性は月経がありますが、月経前はメラトニンの分泌が少なくなるおとがわかっているので、朝ごはんでたんぱく質を摂ることは重要です。

では、晩ごはんは? 晩ごはんは内容よりも、食べる時刻に注意が必要です。就寝4時間前には食べ終わる、もしくはいつもより量を減らして3時間前には食べ終わっていたいものです。

遅い晩ごはんは、深部体温のリズムを乱してしまう危険もあるため、避ける必要があります。また早すぎる場合は、オレキシンという覚醒を促すホルモンが分泌しやすくなります。つまり、お腹が満腹でも、空きっ腹でも良くありません。晩ごはんは、寝る時間から逆算して食べるようにしてください。

次に、眠りの質を高めるための「入浴」方法をご紹介しましょう。

深部体温を上げて
急降下させれば熟睡できる

先ほども書いたように、日中上がった体温が下がることで眠気が訪れます。その仕組みを利用するのが入浴です。

入浴によって、生体リズムで下がってきた深部体温(脳や内臓の温度)を一時的に上昇させると、通常よりも急激に深部体温が下がっていきます。深部体温がしっかり低下することで、熟睡につながる。これが大きなポイントです。

40度のお湯に15分つかると約0.5℃深部体温が上がることがわかっています。これが基本の入浴法です。季節によって39℃にしたり41℃にしたり、前後させるといいでしょう。

ただし、あまり活動量の多くない方、運動習慣がない方、エアコンの中で過ごされている方は、15分では温まらないことがあります。そんな方でも1週間は続けてください。温める効果のある生薬入りや炭酸ガス系の入浴剤などを活用してもいいでしょう。

1週間続けることで、ある程度、自律神経のバランスも正常になっていき、体の熱を下げるための汗をかきやすくなるはずです(心臓疾患や高血圧などの方は、医師に相談してから行ってください)。

最近は、シャワーですませてしまう方も多いようですが、入浴の温熱作用、浮力作用で副交感神経が優位になり、眠気を呼ぶという効果も期待できるので、睡眠の質を上げたいなら、ぜひ入浴することです。

副交感神経を優位にすると
訪れる「うっとりタイム」

人間の体は、日中は活発に活動できるように交感神経を優位にしています。そして日が沈んでからはリラックスして副交感神経を優位にする。それによって眠りに導かれます。

しかし、日が沈んでからも活動を続ける現代人は、交感神経が優位になり続け、寝つきが悪くなったり、途中覚醒が起こったりして、心身に不調が出ます。

そこで、副交感神経が優位になるための「うっとりタイム」をおすすめします。入浴中なら、湯船のふちに畳んだタオルを置き、そこに首をのせて、首の付け根までつかる“完全浴”をしましょう。

この時、呼吸が大事です。空気をフーッと吐くと、体が沈んでお尻が下がっていきます。空気を吸うと、肺に空気が入るので、自然に体がプクーッと浮く。これを続けてみてください。とにかく、心地よく、うっとりすることが大事です。

ただし、高齢の方や心臓がバクバクするという方は、無理をしないで、体を起こしたり、温度を下げたり、時間を短くしながらやってください。

また、うたた寝は危険ですから、もしも眠気を感じたら、すぐに湯船を出たり、歯磨きをしたりして、ながら入浴に切り替えましょう。

入浴後は、ゆったり過ごすこと。寝る前のホットミルクが眠りを誘うという話がありますが、牛乳自体に速攻で眠気を起こす成分は含まれていません。ただ、温めた牛乳をふぅふぅして、ゆっくりと口に運ぶ動作でリラックスできます。ですから、お水やお湯でもいいのです。

そして暖炉やキャンドルのような赤い光の中で「うっとりタイム」を過ごしていると、眠気が襲ってくるはずです。

質の良い睡眠がとれる
寝室環境

夏になると特に、寝室の温度調整が気になります。良質な睡眠を得るために、寝室の最適な温度は様々な見解がありますが、季節を通して20度~26度がベストでしょう。ただ、外気との差が大きすぎると自律神経のバランスを乱す可能性もあるため、夏は26度を下回らないようにした方がいいでしょう。

最適な気温であっても、同じ寝室内に複数で寝ていると、骨格の違いで、暑いと感じたり、寒いと感じたりする場合があります。寒さを感じる場合は、パジャマ、特にレッグウォーマーで、脂肪や筋肉が少ない足首が冷えないように工夫してみてください。暑い場合は、おそらく深部体温がうまく下がっていっていないので、先述のお風呂の入り方で工夫をするとよいでしょう。

適温であったとしても湿度が高すぎると、途中で覚醒するリスクが高まることがわかっています。エアコンをつける前に、2か所の窓をあけて扇風機やサーキュレーター等で換気をして、空気を循環させてある程度湿度を下げてから、エアコンを入れるようにしましょう。除湿機は低い場所に置くといいでしょう。理想的な寝室内の湿度は45〜55%(日本睡眠科学研究所)です。

就寝時は、できるだけ暗くすること。音は40デシベル(静かな図書館ないくらい)以内が生体リズムに合った環境です。

また、寝る時には一年中、長袖長ズボンのパジャマで。もちろん季節によって生地は変えてください。夏でも寝ている間に深部体温が急降下しますので、放熱を妨げずに汗を吸い取るためには長袖長ズボンがいいのです。

マットレスには、体圧が分散される機能があると、寝返りを打つときに負担がかかりません。様々なメーカーのマットレスが販売されている大きな家具屋などで、高いものから安いものまでざっくりとマットレスに寝転んでみてください。詰め物が多ければ多い方が、寝心地が非常によくなります。柔らかめ、硬めがいい、など感覚にとらわれず、様々なものを試してみることをおすすめします。

枕は、上を向いているときに、あごが下を向き過ぎず、上を向き過ぎず、首に負担がかからないものを選びます。さらに、寝返りを打ったときに顔と床が平行になるものを選びましょう。

昼寝のすすめと
スマホ利用の影響

昼寝の効果についての研究も進んでいます。例えば、国立精神神経医療研究センターの「昼寝時間と認知症発生リスク」という研究では、昼寝の習慣がない人に比べ、30分未満の昼寝をする人は、認知症の発症率が1/7に減少したと発表されました。

1時間以上の昼寝は良くないという報告があります。東京大学のグループも昼寝は糖尿病のリスクを高くすると発表しています。

日本睡眠協議会では、55歳未満の方は、毎日、午後の20分を仮眠にあてることと見解を出しています。このとき、横にならずに机にうつ伏せるなどして、深い眠りに入らないようにすることが大事です。

ただ、睡眠負債が蓄積されている方は、20分だけ寝ようとしても深い眠りに入ってしまうので、10分ぐらいで切り上げる方がいいと私は考えています。そのためにアラームをセットしてください。

また、スマホはブルーライトが問題なのと、スマホの使い方によっては寝る前に交感神経を刺激して、脳活動量を高くしてしまうため避けたいアイテムです。それは、テレビなどの大画面でも同じです。

特によくないのが、ゲームです。寝る前にパソコンゲームをすると、メラトニンの分泌量が減り、体温や自律神経の活動に影響が出るということがわかっています。

就寝時刻の15分前からはぜひ、交感神経を低下し、副交感神経を刺激できる、「うっとりタイム」をとりいれましょう。その時間になったら、スマホやパソコンは使わず、寝室の照明を消して、いつ寝てもいい状態にすることがポイントです。

あとは、お好きなアロマをティッシュに滴下して鼻元に置いて香りを感じたり、体を気持ちよく伸ばすストレッチもいいでしょう。

普段呼吸は、自律的に繰り返し行われていますが、意識的にも行うことができる唯一のものです。一度体の中にある空気を口から「はー」と吐いて、自然に鼻から吸っていきます。少しずつ吐く息が吸う息よりも長くなるように。吐くときに心臓の鼓動が遅くなるので、吐く息が長くなっていけば、自然に鼓動が遅くなり、心が穏やかになっていきます。

翌日最高のスタートがきれるように……、今日から早速、質のよい睡眠をとる生活にきりかえませんか?

小林麻利子さん

プロフィール

SleepLIVE株式会社代表取締役社長。公認心理師。日本睡眠環境学会正会員。日本睡眠改善協議会正会員。日本睡眠改善協議会認定睡眠改善インストラクター。
科学的根拠のある最新データや研究を基に、睡眠や入浴を中心とした生活に合った無理のない実践的な指導が人気を呼び、4,000名以上の悩みを解決。眠りのプロ育成にも力を入れ、誰もが当たり前に良質な睡眠を得る方法を理解実践し、親から子へ伝承される社会をつくるために邁進している。また、企業向けには睡眠事業のコンサルティングや、マンション・ホテルなどの睡眠空間設計を行う。多くの書籍を出版し、テレビや雑誌などのメディアでも活躍中。近著「小林式マインドフルネス入浴法」(MdN)

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