【黒川伊保子さんに聞く】男脳と女脳の違いを知って、コミュニケーションを円滑化しよう!

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結婚前はあんなに分かり合えたのに、結婚後は気持ちがすれ違う……。そんな声をよく聞きます。それって、男性と女性の心(脳)の違い? 長年、人間の脳について研究している黒川伊保子先生に、男女の脳の違いや円滑にコミュニケーションをはかる秘訣をお聞きしました。

男性脳と女性脳の違いは
太古から続く生殖戦略

男性と女性の脳には違いがあるのか? 誰でも気になる問題でしょう。

結論から言うと、男女の脳の構造に性差はありません。脳内の橋梁部分(右脳と左脳を連携させる部分)の太さは違うのですが、それも機能の違いにはつながりません。

でも、心は脳が生み出すのだから、脳に違いがなければ、夫婦のすれ違いなんてないんじゃないの? そう思われるかもしれませんね。

私の研究は、ヒトの脳を電気回路装置として見立て、人間関係をその装置の連携システムとしてとらえるもの。その配線構造で見ると、男性にしかない配線、女性にしかない配線はないのですが、女性は、とっさに横方向の信号(橋梁部分)を使う傾向が高く、逆に男性は横方向ではなく縦方向の信号(空間認知)を使います。

つまり、配線は同じでも とっさに使う神経回路(脳が無意識でとる感性)が違うのです。

例えば、男性脳は、不安を感じて緊張した時、無意識に「問題点を見つけ出して解決することを優先する回路」を選び、女性脳は「問題点に共感して気づきを得ることを優先する回路」 を選びます。そのどちらを選ぶかは、生物の本能としての生殖戦略の違いなのです。

生物の本能としての生殖戦略とは、野で狩りをして動物と戦っていた太古から続いています。男性は主に過酷な自然の中で、時には遠くまで獣を探して歩き、それを狩っていました。女性は主に集落のコミュニティの中で子どもを育て、共感しあい、知識を出し合うことで危機回避能力を高めてきました。

こうしてどちらも家族や種族を守り、脈々と命をつないできたのです。

男性脳と女性脳が組めば
種の存続に鉄壁な関係

男性脳は、有事に危機対応をするために、素早く問題点を見つけ出し、解決をしようとする神経回路を選びます。それに対して女性脳は、共感し合うことで深い気づきを得て、平時の危機回避能力を上げる神経回路を選ぶのです。

もちろん、誰でもいつでも100%そうだというわけではありません。意図的には男性脳の行動も女性脳の行動もできますが、とっさの時に、優先される感性の違いが出るのです。

このように、脳のとっさの優先順位が真逆に設定されているおかげで、ヒトとして生き、生命を繋いでいくには鉄壁の関係です。だからこそ、すれ違いが生まれます。

動物のメスとオスは、免疫抗体を作り出す遺伝子の型が一致しない相手に発情することがあります 。それは、子孫へ遺伝子のバリエーションを残し、外的刺激に対してさまざまなタイプの免疫に対応できるようにするためです。

グーグルが4年もの間社内調査をした結果、“心理的安全性”が確保されているチームはそうでないチームよりも成果が出せると言い切りました。“心理的安全性”とは、例えくだらない思いつきを言っても、流れとは別のことを言っても、受け入れてもらえるという安心感のことです。

例え提案が通らなくても、発言の意図をわかってもらえ、ねぎらってもらえるということが、コミュニケーションにおいての“心理的安全性”。ところが男性脳と女性脳の間では、この“心理的安全性”が確保しにくいーーという不幸が起こるのです。

男性脳はただ女性を守ろうとして
心ない言葉を発する

男性脳と女性脳は、問題解決のために違う反応をするからこそ引かれ合い、人類は滅びず、生き残ってこられたともいえます。

ですから、男性脳が発した心ない(と思える)言葉は、愛する人を危険から守ろうとするもの……と言ったら、驚かれますか?

例えば、妻が「今日こんなことがあって、大変だったの」と、話したとします。そんな時、夫が「それはきみも注意したほうがいいよ。こうすればよかったんじゃない」なんて言えば、夫に絶望し、時には見限ることになります。

夫は夫で「正しいアドバイスをしたのに、なぜ逆ギレ?」と呆然とします。

この夫の言葉は、女性にとっては「話を遮ったうえに批判しているだけ」。女性脳はアドバイスが欲しかったのではなく、ただ共感して欲しかったのですから、「そうだったの。大変だったね」の言葉を待っていたのです。

しかし、男性脳は戦いに勝つこと(=問題を解決すること)を急ぐので、どうすればこの女性を守れるか、ケガをさせないかを考えます。もしも、妻に危険がおよんだら助けようとする、それがアドバイスと助言なのです。

こんな夫が心穏やかに暮らしていくためには、まずは妻に共感することです。

そして、失敗した相手には「大変だったね」と共感しながら、「ぼくが◯◯に気づいて、◯◯しておいてあげればよかったね」といったことを言ってあげられれば、逆に絆が深まることになります。

男性脳と女性脳の違いが生む
夫婦の会話のすれ違い

男性脳が、女性を守るために心ない発言をしてしまうのとは逆に、女性脳も男性にとって理解できない発言をしています。

例えば、夫が妻に「今年はいつ夏休みを取ろうかな。いつがいい?」と聞いたとします。すると「田舎の隣のおじさん具合悪いんだって。暑いのに大変よね」との返事。夫にすれば「いつ? と聞いているのに、なぜ質問に答えない?」と、??状態。それでも夫が「やっぱりお盆の時期がいいかな」、妻は「桃の旬って、いつだったっけ?」、夫「???」。

話をポンポン飛ばしているように感じる女性脳ですが、これを翻訳すると、
「今年はいつ夏休みを取ろうかな。いつがいい?」
「田舎の隣のおじさん具合悪いんだって。暑いのに大変よね」
「そうだな。この暑さは乗り越えられないかな」
「じゃ、隣のおじさんにも会えるように、暑くならないうちがいいんじゃない?」
「やっぱりお盆の時期がいいかな」
「お盆じゃ暑い盛りよ。でも、おじさんが好きな桃をお土産に持って行きたいから、7月ぐらいかしら」

これに関しては、女性脳の譲歩が必要です。普段からコミュニケーションをとっている女性脳は、行ったり来たりしながら、結論に辿りつきますが、男性脳はポンポン話が飛んでいくことについていけません。

また、女性脳には異性への警戒スイッチが搭載されています。異性が発した言葉や行動に、「これって、攻撃!?」と、疑う本能が備わっているのです。これも子どもをお腹の中で育み、命がけで出産する女性ならでは。

そのため、例えば、妻が新しい服を着ているのを見た夫が、「あれ、そのスカートいつ買ったの?」と聞いたとします。その時、妻は「安かったから」と、答えてしまう……。身に覚えのある方はいませんか?

この時、妻の頭の中では「新しい服なんて、オレに黙っていつ買った?」と言われているように聞こえて、買ったことを責められているように感じてしまうのです。

でも、男性脳は、自分の縄張りに見慣れないものがあったら、それを確かめてしまうという狩人や戦士の血が残されているだけ。ただ質問しただけなのです。

生殖戦略を理解したうえで
コミュニケーションを円滑にする極意

恋愛時代に、あんなに分かり合えて、同じものを同じように見て、感じることができると思って結婚したのに……。と、嘆いている方々へ。恋愛時代も結婚してからも、その思いは変わっていないのかもしれません。

男性脳は、妻や子どもを守るため。女性脳は、しっかりと子育てをするために、コミュニティと上手に接し、能力の限りを尽くして生活を守っているのです。それは、男性脳や女性脳が無意識にやっていること。悪意も計算もない、太古から続く“生殖戦略”なのです。

そんな男性脳と女性脳がコミュニケーションを円滑化する極意は、「自分の話は結論から言い、相手の話は共感で受ける」こと。つまり、誰と話をするのであっても、自分の話は「問題を解決しようとする男性脳」型で、相手の話は「共感する女性脳」型で進めることです。

そして、相手のポジティブな話には、「いいね」「よかったね」で受けるようにする。もしも相手がネガティブな話を始めたら、相手の気持ちを反復するといいでしょう。「つらいの」「それは辛いね」。「嫌だった」「それは嫌だよね」。「大変だった」「大変だったね」。

こう反復するだけで、お互いに分かり合え、相手は私の味方であると認識できる。こういった努力(?)も大切なのです。

これは夫婦だけの問題ではありません。職場などでも同じくことがいえます。これらの極意を身につけて、“心理的安全性”のある家庭や職場にしていってください。

黒川伊保子さん

黒川伊保子さん
人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”の日本語対話型コンピュータを開発。また、A I分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した。著書に『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』『人間のトリセツ ── 人工知能への手紙』など多数。

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