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漢方ってすばらしい! ~10分で読める 漢方医学コラム~

東洋医学の主役といえる漢方。今、多くの医療機関で漢方薬が処方されるなど、東洋医学の可能性について大きな期待が寄せられています。この秘めたるパワーをもった漢方のことをもっと知りたいという方へ贈る、10分で読める漢方コラムです。

― 第11回 ―

尿のトラブルに対策あり、活力・元気をつける漢方・薬膳

上海中医薬大学附属日本校
校長 矢尾 重雄(医学博士)

尿のトラブルは主に「蓄尿」と「排尿」

尿のトラブル イメージ

尿のトラブルは主に「蓄尿」と「排尿」の問題となります。「蓄尿」のトラブルは尿失禁や頻尿など、うまく尿を溜めることができないこと、「排尿」のトラブルは主に膀胱から先に尿を押し出すことができないなどの尿閉の症状です。「日本排尿機能学会」の疫学調査によると、月1回以上の尿失禁の経験者は約1000万人と推定されています。

臨床的によく見られる尿トラブルは、主に以下の症状があげられます。

  1. 頻尿または夜間頻尿:日本泌尿器科学会では、一般的には朝起きてから就寝までの排尿回数が8回以上の場合を頻尿としています。原因としては、尿道を圧迫する前立腺肥大や過活動膀胱症のほか、心因性の原因もあります。
  2. 残尿感:排尿したあとも尿が出きっていないような不快感が残る状態です。原因には前立腺肥大、尿路感染症などがあります。
  3. 尿失禁:自分の意思がない尿漏れです。腹圧性尿失禁や、突然強い尿意に襲われ我慢ができない切迫性尿失禁があります。尿道括約筋の機能低下、心因性などが原因です。
  4. 尿閉:膀胱に溜まっている尿を排泄できない状態です。前立腺肥大が原因の多くを占めます。

症状がひどい場合、これらの尿トラブルの原因を知るには、医師に診断してもらうことが必要です。


“腎”は体内の水液をつかさどる機能

腎陽気虚

中医学では泌尿器生殖器系など体内の水液をつかさどる機能面を“腎”といいます。
中医学で考える尿のトラブルは、主に泌尿器系の機能の弱りを指す“腎陽気虚”と、泌尿器系や尿路の炎症や通りの問題を指す“湿熱気鬱の虚・実“に分けられます。前者は体力虚弱に関係し、後者は尿路の阻害と考えます。今回は主に腎陽気虚の対策について解説します。

中医学では、体力低下による“腎陽気虚”によって、尿漏れ、頻尿が発生すると考えます。体内の水液は体の各所の機能により全身に散布(肺、脾、腎、三焦の作用)されたあと、腎の機能によって、尿に変換されます(腎の気化作用)。尿はその後膀胱に運ばれて貯留され、意識的に排泄されます。しかし、腎陽気虚により膀胱の制約機能が失われると、頻尿、夜尿症、尿失禁などの症状が発生するのです。また、生殖機能の低下(ED症状)、腰の痛み、足の無力、冷え症などの症状(裏虚寒症状)も見られます。

おすすめの薬膳

これから冬を迎えるにあたり、腎陽気虚の尿トラブル対策としての薬膳は、温性、熱性、甘味、辛味の生薬食材がおすすめです(温陽補腎作用)。

(表1)

作 用食 材薬膳食材
温陽補腎くるみ、にら、お肉(羊、鹿、鶏)、ナマコ、紅鮭、生姜など冬虫夏草、肉桂、茴香、蓯蓉、仙茅、高麗人蔘、大棗など温熱性生薬

薬膳の例

1. 温腎助陽の生姜海老チリ

海老チリ イメージ

材料:車海老100g、生姜10g、長ネギ30g、豆板醤8g、片栗粉8g、水100mL。

中華料理の炒め方法で取り入れてみてください。

2. 健脾温陽の薏苡仁お粥

(「健脾」とは胃腸など消化器の機能面など)

お粥 イメージ

材料:ハトムギ60g、米60g、塩2g、胡麻油3g、水700mL。

ハトムギは洗い、一晩水につけ、水を切ったあと、米といっしょに火にかけます。沸騰したら、弱火にし、蓋をして40分~1時間ほど煮てから、塩と胡麻油で味を調えます。朝食として1日1回、続けて2週間程度試してみてください。

3. 陽補腎の肉桂杜仲茶

杜仲茶 イメージ

材料:肉桂1g、杜仲葉15g、紅茶3g。

800mLの水に杜仲葉を入れて20分間つけたあと、15分煎じます。煎じあがったときに紅茶、肉桂を入れて蒸らします。


上記は例としてあげていますが、表1の食材なども応用して使用してみてください。

中医学で尿のトラブルと一番関係するのは“腎”です。頻尿や夜間尿が起こる原因は、腎の陽気不足、そして水分代謝が悪くなることです。活力、元気をつける漢方薬膳を用いて、上手に改善していきましょう!

上海中医薬大学附属日本校 校長 矢尾 重雄(医学博士)

上海中医薬大学附属日本校
校長 矢尾 重雄(医学博士)

矢尾重雄先生プロフィール

  • 1958年3月生まれ(中国名 姚重華)
  • 1978年2月上海中医薬大学医療学部入学。1984年7月卒業。
  • 1984年8月より上海市第一人民病院で臨床医として勤務。中国の国宝級の名老中医に師事。臨床医として経験を積んだのち日本に渡る。
  • 1994年3月神戸大学大学院医学研究科(分子病理学)で医学博士の学位を取得。
  • 1994年4月よりP&G(プロクター・アンド・ギャンブル社)、1997年9月より大塚製薬株式会社にて二十数年間にわたり医薬品開発と臨床開発に従事。
  • 2017年12月より上海中医薬大学附属日本校校長に就任。長年培った医薬経験を生かして、日本の東洋医学の発展に貢献している。

上海中医薬大学付属日本校ホームページ