漢方について
東洋医学の主役といえる漢方。今、多くの医療機関で漢方薬が処方されるなど、東洋医学の可能性について大きな期待が寄せられています。この秘めたるパワーをもった漢方のことをもっと知りたいという方へ贈る、10分で読める漢方コラムです。
血管・血液の疾患、漢方に期待できること
血管年齢を若くするには?
人間の老化というと、目に見えるしわ・しみ・足腰の変化を思い浮かべますが、私はとくに血管の老化こそが本当の意味の老化なのではと考えます。血管年齢が高齢化すると、高血圧、動脈硬化が発生しやすくなり、心筋梗塞、脳梗塞などを引き起こす危険性が高まります。そのような状態を引き起こさないためには、弾力性や伸縮性のある血管を維持するための取り組みが必要となります。
血液と血管を健全な状態に改善するには、漢方を活用することも有効です。とくに血液の質をキレイに浄化してくれるようなはたらきをもつとされる漢方処方を適正な期間に渡って使用することで、血液はサラサラ、血管は弾力性が回復するなど、血管年齢が若くなることが期待されます。生薬で言えば、丹参、芍薬、紅花、川芎などが配合されている処方がおすすめです。
漢方のお薬は自然の生薬からつくられたお薬です。即効性においては高度に進んだ西洋薬(化学合成薬)にはかなわないことが多いのですが、漢方薬はその人の体質や症状にあった処方を服用することにより、たとえば高血圧・肥満などの生活習慣病にも対応できます。またさらに、本場中国における中医の現場で不整脈、心不全、脳出血などの循環器疾患まで、幅広く使用されてもいます。
中医の現場では、循環器疾患にも使われる漢方薬
循環器疾患の漢方薬の使用例は多くあげられます。中国でも、高齢者の不整脈が増えており、眼圧上昇や前立腺肥大症を併発している場合には、副交感神経遮断作用を持つ抗不整脈薬は使用しにくくなっています。この場合、漢方薬による随証治療(※1)によって改善効果を認めることが多く、患者にとっては西洋薬での治療よりもメリットがあるのではないかと考える医師もいます。また、不整脈に伴う心臓神経症を同時に治すことも期待できます。
※1 漢方は病名ではなく、患者の体質、病気の状況、心と体の状態等を表した「証(しょう)」といわれる概念を基に治療を行う。この証に従って治療することを随証治療(ずいしょうちりょう)という。
中医の現場では、不整脈や心臓神経症に対する代表処方として、実証タイプ(実証:不要物や病因を体内にため込んだ状況)には柴胡加竜骨牡蛎湯、虚証タイプ(虚証:体に必要な要素が不足している状況)には柴胡桂枝乾姜湯、中間証タイプ(虚実両方をあわせもつ状況)には柴胡桂枝湯と桂枝加竜骨牡蛎湯の併用、といういうように使い分けます。また、不整脈によって心臓神経症をきたした方によく見られる、のどの奥のつまり感や不安感が強いときは、半夏厚朴湯を加えて処方することもよくあります。柴胡という生薬を使用した「柴胡剤」と呼ばれる柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡桂枝湯、柴胡桂枝乾姜湯は、驚きやすいという方や精神的な不安感を背景にもっている方にとくに効果がみられるので、不整脈のために心臓神経症になったような方には、私もとくにおすすめしています。
漢方薬による循環器疾患の治療は「弁症論治(べんしょうろんち)」(※2)の原則にしたがって、寒症、熱症、燥証、湿症などに分けられ、また、各症は「実」と「虚」に分けられます。この「弁証論治」という中国医学の数千年にわたる叡智と膨大な臨床経験から、漢方薬に血管の保護作用や血液浄化作用があることが証明されていると私は考えます。
※2 患者の症状を総合的に分析して病変の性質・帰属を判断し弁別することを弁証といい、弁証をもとに治療の方針を定め処置することを論治という。