十味敗毒湯 基礎研究のご紹介
公開日:2024年06月19日最終更新日:2024年06月19日
十味敗毒湯は、肌が炎症を起こして赤くなったり、化膿した方の、ニキビ、湿疹、じんましんなどの皮膚炎や水虫に効能があります。特にニキビについては、日本皮膚科学会の治療ガイドライン(*)において、2008年からニキビ(炎症性皮疹)の治療における選択肢の一つとして十味敗毒湯が推奨されています。またクラシエの製品を使った臨床試験では、難治性ニキビの高い改善率が得られた報告(1) や、抗菌薬との併用で高い改善率が得られた報告(2)等があります。クラシエの漢方研究所では、ニキビに対する十味敗毒湯の治療メカニズムの研究を継続して行ってきました。その一部をご紹介します。
(*)公益社団法人日本皮膚科学会 尋常性痤瘡・酒皶治療ガイドライン2023
(1)西日本皮膚科77 巻 (2015) 3 号
(2)西日本皮膚科76 巻 (2014) 2 号
<十味敗毒湯のニキビに対する主な作用>
肌バリアや保湿能を高め、肌の調子を整える
男性ホルモンによる過剰な皮脂分泌を抑制する
過剰な免疫反応を抑え、炎症による赤みを鎮める
皮脂を酸化させたり、細胞を傷つける活性酸素を減らす
❶女性ホルモン(エストロゲン)の分泌を促進する
対象
ヒトの皮膚線維芽細胞
方法
十味敗毒湯エキスを加えて細胞を培養し、24時間培養後に分泌された女性ホルモン(エストロゲン)の濃度を測定しました。また、十味敗毒湯から構成生薬のうちの一つ「桜皮」を抜いたエキスの影響も同様に測定しました。
結果
十味敗毒湯よって皮膚線維芽細胞からの女性ホルモン(エストロゲン)の分泌量が増えていました。また、桜皮を抜くとその効果が減ったことから、桜皮がその役割を大きく担っていることがわかりました。
十味敗毒湯によって
女性ホルモン(エストロゲン)が分泌される
~桜皮について~
桜皮はヤマザクラやカスミザクラの樹皮を乾燥させた生薬で、クラシエの十味敗毒湯には桜皮が使われています。十味敗毒湯は江戸時代の外科医である華岡青洲が生み出した処方ですが、歴史の中で様々な配合が生まれ、採用している出典によって、その構成生薬はメーカーごとに異なることがあります。
➋過剰な皮脂を抑える
対象
ハムスターの皮脂腺細胞
方法
男性ホルモン(テストステロン)のみと、そこに十味敗毒湯も加えて14日間培養した皮脂腺細胞において、細胞が作り出している皮脂の量を測定しました。
結果
十味敗毒湯を加えた皮脂腺細胞では、合成される皮脂の量が減少しました
十味敗毒湯によって、
男性ホルモン(テストステロン)による皮脂の合成量が減る
❸過剰な炎症(肌の赤み)を抑える
対象
雌のマウス
方法
不活性化させたアクネ菌で疑似的にニキビ症状を再現し、十味敗毒湯エキスを1日1回週6回、約2週間経口投与し、治療後の皮膚の赤みと、好中球の集積を評価しました。
結果
不活性化アクネ菌による、皮膚の赤みと好中球の集積を抑制しました。
* 好中球はニキビ改善に欠かせない細胞ですが、過剰に活性化すると逆にニキビを長引かせ、ニキビ痕の要因にもなります。このため、過剰な好中球が減るとニキビの早期回復につながります。
十味敗毒湯を服用すると
アクネ菌による皮膚の赤みが減る
十味敗毒湯を服用すると
過剰に免疫細胞が集まるのを抑える
❹活性酸素の発生を抑える
対象
マウスの好中球
方法
不活性化アクネ菌と好中球を接触させ、そこに十味敗毒湯も加えた時に発生する活性酸素の量を測定しました。
結果
不活性化アクネ菌と好中球を接触させることで、活性酸素が細胞外に発生しましたが、十味敗毒湯によって活性酸素の発生量が減少していました。
十味敗毒湯により、
活性酸素の発生が抑えられる
出典:
- 道原 成和,張 群,張 紹輝,今村 知代,韓 立坤,高橋 隆二,桜皮配合十味敗毒湯のエストロゲン様作用およびエストロゲン分泌促進作用について,医学と薬学 76(10): 1449-1456, 2019
- 篠原 健志,藤田 日奈,十味敗毒湯および桜皮の皮脂合成に対する作用,医学と薬学73(5): 579-583, 2016
- 千葉 殖幹,藤田 日奈,与茂田 敏,高橋 隆二,Propionibacterium acnesに対する好中球の炎症応答に与える十味敗毒湯(桜皮処方)の効果,医学と薬学73(10): 1265-1273, 2016
※なお本内容は、漢方処方に対する基礎研究に基づくものであり、特定製品の効果を評価したものではなく、また人に対して同様な効果が得られることを保証するものではありません。