前回までは、病気が起こる原因や健康維持に必要な陰陽のバランスについて説明をしました。あらためて、自分の体質や現在の体調などと比べていかがでしたでしょうか?
漢方の治療方法には「治病求本」(病を治すには必ず本を求む)があり、病気を治療するには根本原因を見つけ、それに対して治療を行うべきであると考えます。その原則を踏まえながら、体質や病気の根本的な治療だけでなく、症状に対応した対症療法的な治療もあるのです。これを本治(ほんち)と標治(ひょうち)と呼びます。では、本治と標治とはどのようなものなのかを解説していきます。
本治と標治とは
漢方の治療をする方法として、「本治と標治」があります。
「本治」とは、病気の元となる体質を改善する根本的な治療のことをいい、「標治」とは、今起こっている主症状を治療する対症療法のことをいいます。
漢方では、あらかじめ病気になりにくくするために体質を改善することはなによりも大切だと考えています。不調が現れたら体の一部を治すのではなく、体全体の不調である原因を探り治療をおこないます。病気が起こる原因や症状は、ひとつではないと考えているからです。
例えば、雨の日に頭が痛くなったり、むくんだりする方は、体に水が滞っている体質が多いと考えます。西洋医学では、頭が痛くなったら頭痛薬を飲みますが、漢方では、体の中の水分を外に出す働きのある漢方薬「五苓散」を処方することがあります。もちろん、症状や体質に合わせるので、他の漢方薬を選ぶ場合はあります。この薬は頭痛そのものを治すものではなく、体の中の余分な水を外に排出することにより、むくみ・めまいなど体全体の症状を治療するための薬です。
このように、漢方薬は体全体を改善できるというメリットがあります。しかし、体質改善ばかりを優先してしまうと、症状によってはさらに悪化したり苦痛が残ってしまったりする場合があります。そこで、漢方には「治病求本(ちびょうきゅうほん)」という考えがあり、何を優先するかまたはどんな治療をするかの基本方針を決めていきます。それでは、具体的に「本治・標治」について説明をします。
本治とは ~症状が起こっている原因から改善していくこと~
「本治」とは、病気の根本的な治療を目的とした方法のことをいいます。
例えば、毎年花粉症になる方は、花粉症の元となる原因の治療からはじめます。花粉症の原因は、食事や睡眠など普段の生活習慣である場合が多いと考えます。水分をよく飲む、甘いもの脂っこいものを好むなどです。胃腸が弱い人も関係があると考えています。
また、漢方では肺の症状は鼻に通じているという考えがあるため、肺の機能が悪くなると邪気(体にとってよくないもの)が侵入しやすくなり、くしゃみや鼻水などいった症状が現れます。
「本治」では、このように体の中に邪気が侵入を防ぐために、肺の機能を整えることからはじめます。また、肺は大腸と関係が深いため、肺の機能を整えるためには便秘を改善することも大切です。また肺は脾(胃腸)とも関係が深いため食事や水分摂取も鼻に影響を与えます。
「本治」とは、症状そのものを抑えるのではなく、症状が起こっている原因から改善していくことを目的としています。そのため、本治は根本的な治療を目的としているため短い期間で改善できないのですが、長い目でみると体全体の状態を改善することができます。漢方では、症状の根源である体質を整えることは健康維持につながると考えています。
標治とは ~一時的又は継続的な症状を緩和することを目的とした対症療法~
「標治」とは、一時的又は継続的な症状を緩和することを目的とした対症療法のことをいいます。例えば、花粉症の場合、鼻水やくしゃみなどの症状を抑える治療をおこないます。花粉症が起こる原因は、冷えによるものなのか、もしくは熱によるものなのかを調べます。
冷えによるものを風寒(ふうかん)といい、熱によるものを風熱(ふうねつ)といいます。風寒タイプは体が冷えているため、水のような鼻水が出たり、くしゃみを連発するのが特徴です。風熱タイプは体に熱がこもっているため、ドロッとした鼻水が出たり、目のかゆみ、充血などが現れるのが特徴です。風寒タイプは、体を温めて体を冷やす邪気を発散させます。風熱タイプは、体の熱を冷まして炎症をおさえます。
本治と標治を利用した治療方法とは
「本治と標治」は、そのときの症状に合わせて治療することが大切だと考えています。「本治と標治」には、3つの治療方法があります。
ただし、「本治と標治」を見定めるには、知識と経験が必要です。特に重い症状がある場合は、漢方の専門家など知識を持つ方に相談することが大切です。
・急則治基標(急ならば則ちその標を治す)
急を要する症状があるとき、あるいは命に関わる症状があるときは、症状をやわらげる治療からすることをいいます。例えば、慢性疾患を持っている人にかぜ症状が出たときに、元々持っている慢性疾患を治療する前にかぜの症状を治療することです。かぜの症状を放っておくとどんどん悪化してしまい、慢性疾患に影響が出てしまいます。
・緩則治基本(緩ならば則ちその本を治す)
慢性的にある症状を根本から治療をすることをいいます。例えば、慢性疾患を持っている人に、特に表面上に症状が出ていない場合(見た目の症状が出ていない場合)、根本治療を行うことです。
・標本兼治(ひょうほんけんち)
「標治」も「本治」もどちらも同じくらい症状が重いときは同時に治療をすることをいいます。例えば、何度も風邪をひく方は、体質が改善していないと考えます。また、気(エネルギー)が不足しているため、外邪などの邪気から体を守る力もありません。標本兼治(ひょうほんけんち)はかぜの症状を治療しながら、根本的な体質改善を同時に行っていきます。