軽い症状のうちは、なんとなく放置してしまいがちな痔。
治療しないままでいるとどうなってしまうのか、
大腸・肛門疾患専門のお医者さんに聞いてみました。
時任 敏基 先生
医療法人時任会 ときとうクリニック院長
横浜市立大学医学部卒業。第2外科学教室に入局し大腸癌をはじめとした消化器一般外科の診療・研究に従事。その後、理化学研究所ライフサイエンス研究センターで、癌遺伝子の研究に従事した後、国内有数の大腸肛門専門病院である東葛辻仲病院(千葉県我孫子市)に勤務。同病院副院長を経て、平成11年に「ときとうクリニック」を開設。平成18年、医療法人時任会 理事長に就任。
●日本大腸肛門病学会 専門医・指導医
●日本外科学会 専門医
●日本消化器内視鏡学会 専門医
最も症状の軽いⅠ度は、「排便時に出血するものの、内痔核が肛門から脱出しない状態」。Ⅱ度は、「排便時に内痔核が脱出し、排便が終わると自然に戻る状態」。Ⅲ度は、「排便時に内痔核が脱出し、指で押さないと戻らない状態」。Ⅳ度が「排便に関係なく内痔核が脱出している状態」です。
痛みがなくても排便後に出血があればⅠ度です。出血の程度は、トイレットペーパーにつく程度のものから鮮血がシューッとほとばしる「走り痔」までさまざまです。Ⅱ度以上になると、内痔核の脱出によって異物感を感じるため、多くの方が痔であることに気づくようになります。Ⅳ度になると、おしりがジクジクし、肛門周辺がかぶれたり、強いかゆみがでたりします。まれに、脱出した内痔核が腫れ、それが肛門の筋肉によって締め付けられて、激しい痛みが生じることもあります。
それでもまだⅢ度であれば、脱出した内痔核を中に入れ込む方法や注射で固める方法など、切らなくていい痛みの少ない手術という選択肢がありますが、Ⅳ度になるとそうもいきません。例えば、痛みが強いため括約筋をぐっと締めつけ、血流不全を起こしているようなひどい状態で来院する患者さんもいらっしゃいます。そういった方は、内痔核を中に戻すためにも麻酔が必要だったりするのです。症状が悪化するにつれ、治療の選択肢が狭まったり、大掛かりな処置が必要になったりするため、初期段階で対処することをおすすめします。
出産後に内痔核が悪化する方もいますが、また子供を産むことを考えているなら、その前に治しておいたほうがいいでしょう。
座るのも辛いほど痛みがあるなら、なおさらです。市販薬と病院で処方する薬とでは、成分や成分の配合量に違いがあり、例えば塗り薬であれば病院で処方された薬の方が痛み止め効果が高いと考えられます。
出血がある場合も医師の診察を受けるべきです。病院に行くのは恥ずかしい、怖いといった気持ちも分かりますが、出血には稀に大腸がんなどの重篤な病気が隠されていることもあるのです。
症状が弱い場合、まず市販薬を使ってみる価値はあります。でも、1週間、最長でも2週間使用しても治らなければ、専門医に診てもらうべきです。
便秘になると痔を発症する可能性も高まるのです。また、便が硬いと排便の際に「裂肛(れっこう)(切れ痔)」が起きることもあります。こうして痔になると、排便時の痛みを避けるためにトイレを我慢してしまい、さらに便が硬くなるという悪循環に陥ってしまうのです。便秘が原因の痔は、痔だけを治そうとしても再発してしまうため、痔と便秘の両方を解消する必要があります。
座ったまま、または立ったままなど、長時間同じ姿勢を続けないことも大切です。 また、排便時間が長すぎるのも問題です。例えば、毎日20分もいきみ続けていれば、当然痔の原因になったり、痔が悪化したりします。出なければ一旦あきらめて、運動や水分補給を行うなど、痔になりにくい排便習慣を心がけましょう。
便をやわらかくしてお通じをスムーズにするだけでなく、肛門周辺の筋肉の収縮を助け、内痔核の脱出を防ぐといった効果もあります。私は術後の患者さんに、排便時の痛みを軽減する、炎症を鎮めるという目的で利用しています。生活習慣の見直しだけではなかなか改善できない慢性的な便秘症にも有用で、多くの緩下剤のなかでも腹痛を起こしにくく、安心して使うことができます。
但し、安全といわれている漢方薬であっても、副作用が全くないわけではありません。まれにむくみや肝臓への負担、肺のアレルギーなどを起こす方もいますので、飲んでみて調子が悪ければ、早めに専門医を受診するようにしてください。