薬膳料理研究家・槇玲さんに、がんばらない薬膳レシピをお願いしました。
「薬膳は、自然界に存在する命すべてを薬と考えていただくもの。ちっとも難しく考えることはないのです。毎日、自分の体の声を聞いて、体調に合った旬のものを食べるだけです」。だから、食材はスーパーで買えるものでOK。食べたいものを、楽しく美味しくいただくのが、槇玲さん流の薬膳レシピです。
中学生の頃は太っていたという槇玲さん。それがコンプレックスで、男子が陰で「デブ」と言っているのを聞いたのをきっかけにダイエットを始めたそうです。いろいろなダイエット法を手当たり次第に試しているうちに、何も食べないことが一番体重を落とせると気づいた“つもり”になったそうです。
ところが4日目に低血糖を起こし、通学路で倒れてしまったとか。それでも痩せていくのがうれしくて、ダイエットしてはリバウンド……を繰り返しながら、これまでの自分を知っている人が少ない、少し離れた高校へ。そこでも、「もっと変わりたい」という気持ちが空回りして体を壊してしまいました。
そこでようやく「体が健康でなければ、勉強も頑張れないし、友だちとも遊べない」と、栄養について考えるようになったそうです。その頃は大分体重も減り、好きな人ができ、いい奥さんになりたいという気持ちも芽生えて、高校卒業後は栄養学校へ。栄養士の免許をとってからは、児童養護施設の栄養士になりました。
昼食と夕食作りに来る調理員さんはいますが、朝5時起きで中高生のお弁当を作り、そのあと50人分の朝食を準備しました。子どもたちと一緒に生活をともにする寮生活は、思った以上に過酷で一緒にお風呂に入る、幼児の寝かしつけをする、そのあと、書類業務が山ほどあります。
結局、2年目には体を壊して、病院での血液検査では「白血病かもしれないので詳しい検査をしましょう」と告げられたそうです。同じタイミングで、槇玲さんの父親が事故で急逝。死への恐怖と、父のためにも生きなければという想いから、変わることを決心。再検査ではなく、「健康を取り戻す」選択をし、本屋さんに向かいました。
そこで、薬膳の本に出合いました。
「栄養について勉強し直そうと思って本屋さんに行ったところ、『薬膳』と書かれた分厚い本があって。今のようにおしゃれな薬膳ではなかったですが、苦くて黒いスープでも飲めば健康を取り戻せるかなと……、藁をも掴むつもりで本を広げました」
「本の内容は難しかったですが、一つだけわかったのが、私が好んで食べていた、体にいいと信じて食べていた食材が、どれも体を冷やす作用のものだったのです。それを知って愕然としました」
例えば、トマトは夏野菜、バナナは南国のフルーツだから、どちらも暑い時期に食べるのは良くても、冬、体が冷えている状態の時に食べては、もっと体を冷やして不調を招きます。
「そこで体を温めるものを意識して摂るようにしたら、少しずつ体調が良くなっていって、『薬膳ってすごいかも』と思うようになりました」
それからは独学で薬膳を勉強し、長男出産をきっかけに退職、薬膳の料理教室を始めました。神戸の鍼灸学校で講師をしていた医学博士の邵輝(ショウキ)先生の講座に通いながら、東洋医学の知識を深めて行ったそうです。
「今は、管理栄養士としての知識と薬膳との“良いとこ取り”をしながら、教え、家族への料理を作っています」
3人の子どもたちは、 “自分の体の声”を聞いて食べるということを自然に身につけて育っているといいます。
「子育てって、『今日は昨日とちょっと違うな』と気づいてあげることだと私は思うんです」と、槇玲さん。
「普段は食養生の考えから、家族全員一緒の料理で良いのですが、例えば学校であった出来事などの話を聞いていて、『昨日と比べて声に元気がないな、気持ちが弱気だな』と思う子がいたら、その子に元気になる食材をプラスアルファしてあげればいいんです」
さらに、「東洋医学って『気』の哲学」と、槇玲さんはいいます。
『気』とは、『気持ち』『気分』などと表現されます。『気分が上がる、下がる』と表現しますが、気が上がっている時は、頭で考えすぎるからイライラしたり、目が疲れたり、逆流性食道炎などが起こりやすくなります。こんな時は陰陽のバランスをとることが必要で、気を下げるために、下に伸びる根菜などを食べます。
お米や豆もエネルギーが真ん中にあり、気の向きを中に入れることがあるため、気が上がっている時に食べるといい食材です。
気が下がっている場合は、足がだるいとか、やる気が出ないという症状が出るので、生姜をちょっと多めに摂るとか、キムチを食べるとか、ちょっと辛いものを食べればいいのだそうです。
いつも今日の「気分」、「気の在りどころ」を感じて、食材を選ぶといいと思います。
「人間は、生きるために食べないという選択はないわけです。じゃあ、同じ食べるなら今の体に合っているもの、相性が良いものを食べる。すでに習慣化されていて努力がいらないことで未来の元気につなげていこうというのが薬膳です。そのために、今日の自分や家族の体の声に耳を傾けること。それだけでいいのです」
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PROFILE
薬膳料理研究家、管理栄養士。スーパーでそろう食材だけでつくる薬膳料理教室を2002年より開講。主婦目線のリアルなレシピで、テレビや講演なども行いながら、飲食店や福祉施設などへの献立やレシピ提供、鍼灸院にて食事相談も行っている。著書は「ナチュラル薬膳~スーパーでそろう食材だけでつくるがんばらないわたしの薬膳レシピ」、「おうち薬膳〜かんたん、おいしい、きれいになる」などがある。