野菜は体にいいといわれます。実際、どの野菜がどんな症状の対策になるのか解説!免疫力アップにパプリカ、骨粗しょう症にはサラダ菜、更年期障害の予防にはさやつきの枝豆…。便秘、疲労、肌荒れ、がんや高血圧まで予防できる―そんな夢のような薬(野菜)があるのに、服用しないなんてもったいない!
栄養の専門家が提唱する最強のくすり野菜12選。気になる症状別に野菜の処方せんをお伝えする。
1日350g ―― 大人1人当たりに必要な、野菜の摂取量の目安だ。生野菜なら両手にのるよりたくさん、加熱してかさを減らしても片手であふれるくらいの量になる。
これは、厚生労働省が進める21世紀における国民健康づくり運動「健康日本21」で定められているものだ。毎日の食事でこれだけの量の野菜を食べている人が、果たしてどれくらいいるだろうか。
管理栄養士の麻生れいみさんが説明する。
「目標の量を食べている人は少ないはず。実際、『平成30年国民健康・栄養調査報告』によると、野菜の摂取量の平均は1日269.2gです。
350gといっても、とんカツに添えられたキャベツを何度もおかわりしたり、安いからといってもやしを大量に食べたりと、一種類の野菜だけをたくさん食べてもあまり意味がありません。350gのうち、キャベツやもやしなどの淡色野菜は230g以上、トマトやピーマンなどの緑黄色野菜は120g以上食べるのが理想です」
そもそも、なぜ毎日それほどの量の野菜を食べなければならないのか。
野菜に含まれる栄養素には、体内では作ることができず食べ物から摂るしかないものや、肉や魚、米、卵などでは充分な量が摂れないものが多い。
たとえば、ビタミンやポリフェノールは高い抗酸化作用がある。老化防止や美肌効果で知られているほか、免疫力を上げることでがん予防にも役立つ栄養素だ。
多くの野菜が、高い抗酸化作用を持つビタミンCやE、ビタミンAのもとになるβ-カロテンを含んでいる。食物繊維は、米やいも類にも含まれるが、野菜の持つ食物繊維とは“質”が異なる。
「米やいもの食物繊維は、水に溶けない不溶性。野菜、特にきのこは、水溶性食物繊維も多く含みます。“不溶性と水溶性を2対1の割合で摂取”するのがベストなのです」(麻生さん・以下同)
食物繊維が腸内環境を整えるために役立つのは知ってのとおり。不溶性食物繊維は腸の中で便のかさ増しをして腸を刺激するもので、水溶性食物繊維は水分を吸ってゲル状になり、腸内の汚れをからめ取りながら便を出しやすくしてくれる。どちらか一方だけではだめなのだ。鉄分やカルシウム、マグネシウムのほか、塩分の排出を促して高血圧を予防するカリウムなどのミネラルは、ほかの栄養素の働きを高める効果を持っている。
ホルモンの正常な分泌や骨、粘膜などの維持のために必要不可欠な栄養素だが、ミネラルは体の中で作り出すことができないため、食べて摂取するしかない。
もちろん、サプリメントなどで特定の栄養素を摂ることはできるだろう。しかし、副作用や摂取量の上限の心配があり、一生摂り続けられるものではない。その点、野菜は一生、いくらでも“服用”できる“最強のくすり”なのだ。
1年を通して食べられる野菜の中で、栄養価が高くアレンジもしやすいのは、意外にも「サラダ菜」。
「骨粗しょう症の治療薬にも含まれる『ビタミンK』が100g中110μgも含まれています。これは、カルシウムの吸収を助ける働きがあるので、魚料理のつけ合わせにしたり、缶詰のさばなどと一緒にサラダにするのがおすすめ。おひたしにしたり、ゆでてミキサーにかけ、ピューレ状にしてソースやドレッシングにすると、よりたくさん食べられます」
管理栄養士の磯村優貴恵さんは夏野菜の1つ、「パプリカ」をあげる。
「特に、赤パプリカには100gあたり170mgものビタミンCが含まれます。これは、大人が1日に必要とするビタミンCの量=100mgを軽く超えるほど。ビタミンCには抗酸化作用のほか、鉄の吸収やコラーゲンの生成を助ける効果もあります。鉄分豊富なほうれん草や、コラーゲンの材料になるたんぱく質の多い肉や魚と一緒に食べるといいでしょう。生で食べるのはもちろん、炒めたり蒸したりしてもOKです」
ほかにも、この時期よく出回る「なす」や「トマト」も定番の“くすり野菜”だ。なす特有のポリフェノール『ナスニン』の抗酸化作用は非常に強力で、がん予防やコレステロールの吸収を抑える作用も期待できる。
「トマトに含まれる『リコピン』は、ビタミンEの約100倍の抗酸化力があるといわれます。また、水溶性食物繊維の一種『ペクチン』は、血中コレステロール値を下げ、血液をサラサラにする効果が期待できる」(麻生さん)
トマトの栄養素は熱に強く、油との相性もいいので、調理方法を選ばず食べられるのもうれしい。節約野菜の代表選手である「豆苗」も、見た目は地味ながらかなり優秀だ。
「“三大抗酸化ビタミン”のA(β-カロテンが変化)、C、Eをバランスよく含んでおり、まさに抗酸化のACE(エース)。さらに、ビタミンK、カリウムなども豊富です。豆苗の栄養素も油との相性がよく、さっと炒めたり、ベーコンや卵などの脂質を含む食べ物と一緒にサンドイッチの具にしたりするといいでしょう」
専門家がおすすめするくすりになる野菜12選。各野菜の有効成分については下記一覧で解説する。
1.サラダ菜…骨粗しょう症予防、免疫力アップに!
葉が柔らかく傷みやすいので、やさしく手でちぎること。おひたしも◎。ミキサーにかけて魚料理のソースにすると、魚のカルシウムの吸収を助ける。
■有効成分:[β-カロテン] [ビタミンK]
2.パプリカ…免疫力アップも美肌もかなえる
ビタミンC、ビタミンE、β-カロテンなどの抗酸化作用の高いビタミンが多く含まれている。赤色は特にビタミンCが豊富。
■有効成分:[ビタミンC] [ビタミンE] [β-カロテン]
3.トマト…血液サラサラ野菜の代表選手
おいしいトマトを見分けるポイントの1つは、お尻側に白く“星形”のように筋が入っていること。加熱したりすりおろしたり刻んだりして細胞膜を壊すと、リコピンの吸収率が上がる。
■有効成分:[リコピン] [β-カロテン] [ビタミンC] [ビタミンE] [ペクチン]
4.なす…がん予防、コレステロール値も改善
栄養素の吸収率が上がるので、揚げびたしや炒めものにして。栄養の多くが皮に含まれているので、ぜひ皮ごと。体を冷やさないよう、しょうがやにんにくと一緒に。
■有効成分:[ナスニン] [カリウム]
5.みょうが…食欲増進、血行も改善!
刻んで酢飯に混ぜたり、炊き込みご飯にしたりと万能な薬味。スライスしてはちみつに漬ければ、さわやかなみょうがシロップになる。アイスやかき氷にかけても。
■有効成分:[アントシアニン] [α-ピネン]
6.枝豆…更年期障害、骨粗しょう症を予防
イソフラボンが女性ホルモンと似た働きをする。たくさん食べたいならミキサーにかけて。ポタージュのほか、くず粉と合わせて“枝豆豆腐”にしても。
■有効成分:[イソフラボン] [β-カロテン] [ビタミンB1]
7.ズッキーニ…余分な塩分を排出してむくみ、高血圧を予防
油で加熱すればβ-カロテンが、汁ものなどに入れればビタミンCがより効率よく摂れる。薄切りにして塩もみすれば生でもおいしい。浅漬け、ピクルスも◎。
■有効成分:[β-カロテン] [ビタミンC] [カリウム]
8.かぼちゃ…悪玉コレステロール対策に!
わたの栄養価は実の約5倍とも。種は洗って乾燥させて皮を取り、180℃のオーブンで5分焼くとローストパンプキンシードに。ヨーグルトやケーキにかければ手軽に栄養価をアップさせられる。
■有効成分:[β-カロテン] [ビタミンACE] [ビタミンB] [カルシウム] [鉄]
9.えのきだけ…便秘改善、ダイエットの救世主
腸内で脂質の吸収をブロックする効果も。冷凍すると、旨みと栄養価がアップするので、石づきを切ってそのまま冷凍庫へ。凍ったまま鍋に放り込んでOK。
■有効成分:[食物繊維] [グアニル酸]
10.にんじん…ペクチンが高血圧、心臓血管疾患を予防!
できれば皮をむかずに食べて。卵やツナと炒めるにんじんしりしりや、クミンとレモンで香りづけしたキャロットラペなら、食べやすく栄養の吸収も上がる。
■有効成分:[β-カロテン] [食物繊維]
11.いんげん…たんぱく質と合わせて疲労回復に
カリウム、β-カロテンのほか、脂質の代謝を促すビタミンBも豊富。定番のごま和えは、食べ合わせ的にも◎。卵と炒めると吸収率が上がり、バランスもアップ。
■有効成分:[カリウム] [ビタミンB] [ビタミンC] [β-カロテン] [鉄分]
12.豆苗…女性にうれしいビタミンの宝庫
50gで女性が1食で摂るべきビタミンK、A、C、葉酸をほとんど摂取できる。炒めるときは、食感を損なわないようにサッと火を通すだけがおすすめ。
■有効成分:[ビタミンK] [カリウム] [β-カロテン] [ビタミンACE] [葉酸]
■β-カロテン…視力や粘膜を健康に保ち、免疫力を上げる。体内に吸収されると、一部がビタミンAになる。
■ビタミンA…抗酸化作用によって動脈硬化やがんを予防する。
■ビタミンC…免疫力を上げたり、ストレスを緩和する。コラーゲンの生成を助ける作用も。
■ビタミンE…血流の改善や生活習慣病の予防に役立つ。抗酸化作用もある。
■ビタミンK…カルシウムを骨に届けるのを助け、骨粗しょう症を予防する。
■ビタミンB群…エネルギーの代謝を助け、血糖値を下げる。疲労回復や貧血によるエネルギー不足にも役立つ。
■鉄…貧血予防、疲労回復に役立つ。
■カルシウム…骨や歯の材料になり、イライラを抑える作用もある。
■マグネシウム…体内の酵素の働きを助け、エネルギーを作るのを助ける。高血圧、心疾患の予防にも。
■葉酸…赤血球を作るのをサポートし、貧血予防に。妊娠中は通常の2倍の量が必要。
■カリウム…余分な塩分と水分を排出する利尿作用がある。
■食物繊維…腸内環境を整え、便秘を改善する。
■ポリフェノール…高い抗酸化作用があり、老化防止、がん予防、動脈硬化予防などに役立つ。
■イソフラボン…女性ホルモンと似た働きをするため、更年期障害の症状を和らげるとされる。
●できるだけ丸ごと食べる野菜の有効成分”を最大限摂取するには、どうしたらいいか。野菜の栄養素は皮や種に多く含まれるため、できるだけ丸ごと食べるのがいいと磯村さんは言う。
「『枝豆』は“畑の肉”である大豆の若いもの。たんぱく質やビタミンB1が豊富です。これは糖質をエネルギーに変えるのを助ける栄養素で、糖質の多いビールと一緒に枝豆を食べるのは、栄養的にも理にかなっています。効率よく摂るには、にんにく・輪切り唐辛子と一緒に、枝豆をさやごとオリーブオイルで“ペペロンチーノ風”に炒めましょう。もちろん、おつまみにも最適です」(磯村さん・以下同)
●皮や種をだしパックに入れて、野菜だしをとる皮や種をそのまま食べるのは抵抗がある場合は、へたやわたなどと合わせてだしにするのも手。
「だしパックにまとめて入れて15~20分ほど煮ると『ベジブロス』という野菜のだしがとれます。玉ねぎの皮を加えるときれいな黄金色に、かぼちゃの種を入れるとほんのり甘いだしになる。市販のパックだしと同じように使えます」
●余った野菜は、塩ゆでして急速冷凍保存方法もひと工夫したい。
「もし野菜が余ったら、さっと塩ゆでしてから粗熱を取り、すぐ冷凍庫に入れておく。急速冷凍すれば、栄養素を極力壊さずに長期保存できます。ゆでるときは、お湯は使わずに電子レンジで加熱する方がいい。ビタミンCやEなど、水溶性のビタミンが流れ出さないで済みます」(麻生さん)
●市販の冷凍野菜の活用も◎「いちいち下ゆでして冷凍するのはめんどうくさい」という人は、市販の冷凍野菜を使う手もある。
「現在の冷凍技術はかなり進んでおり、旬の時期に収穫した野菜をベストな状態で急速冷凍しています。ですから、加工されていても、栄養はちゃんと保たれているのです。野菜単品だけでなく、袋から出して調味料と加熱するだけですぐに料理が一品作れるようなミックス野菜もある。自分の生活スタイルに合わせて冷凍庫にストックするなど、無理なく野菜を摂ってほしい」(磯村さん・以下同)
また、生食用のトマトよりも缶詰のトマトの方が赤色が濃く、リコピンの含有量が多いため、ストックするならトマト缶もおすすめだ。これからの時期は、「ズッキーニ」や「みょうが」なども旬を迎える。旬の野菜は、おいしくて安いだけでなく、その“効能”もパワーアップするのだ。
「夏野菜の多くが、水分を多く含んでおり、食べることで水分補給にもなる。みょうがの香り成分のα-ピネンは食欲アップが期待できるため、夏バテ予防にもぴったりです」
野菜は一度ですぐ効く“特効薬”ではない。しかし、毎日“服用”することで、1か月後、1年後、10年後の体が変わる。1日3回、食事、お酒を楽しみながら。用法・用量はお好みでどうぞ。
管理栄養士・麻生れいみさん、管理栄養士・磯村優貴恵さん
※女性セブン2020年6月25日号
https://josei7.com/
この記事は、小学館『介護ポストセブン』(初出日:2020年6月24日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。