まだまだ収まらない新型コロナウイルスや、インフルエンザなど、感染症対策のカギは、免疫力を高めること。それには『保温』と『睡眠』が重要です。そう話してくれたのは、温泉療法専門医 早坂信哉さん。この機会に体を温め、よい睡眠に導く正しい入浴ルールを学んでいこう。
細菌やウイルスから体を守ってくれる免疫細胞は、疲労や自律神経の乱れ、睡眠不足などで活動が鈍くなり、体調不良につながるが、「入浴には免疫細胞を活性化させる役割がある」と、温泉療法専門医 早坂信哉さんは言う。(以下同・早坂さん)
「免疫細胞は、作られる場所(骨髄)と使われる場所(全身のリンパ節)が離れており、それを運ぶのが血液。従って血流がよければ細胞は全身をくまなく巡ります。つまり入浴は温浴効果で血流を促進し、免疫機能向上に役立ちます」
その他にもメリットが…専門家の調査では
・「毎日入浴する人は、そうでない人に比べ3年後に要介護になるリスクが29%低い(※1)」
・「毎日入浴する人は、しない人より幸福度が10%高い(※2)」
という結果も。
(※1)2019年、早坂さんのチームが1万4000人弱の高齢者を対象にした調査結果。
(※2)2012年、早坂さんのチームが静岡県の住民6000人を対象にした調査結果。
だが、入り方を間違えると深刻な事態を引き起こす。
「“寒い脱衣所→熱い湯船”の温度差で血圧が急上昇し、心筋梗塞や脳卒中などを招く“ヒートショック”は冬が圧倒的に多い。脱衣所や浴室を温め寒暖差を減らし、湯船に入る前は充分にかけ湯をしましょう」
ヒートショック以外の事故では、入浴中の熱中症も怖い。
「熱い湯に長くつかりすぎたり、入浴中に寝てしまうと体温が上がり、脱水症状になります。皮膚のセンサーは加齢とともに鈍くなるので、自分が『適温』と感じる温度が実際より高い場合が多い。水温計や給湯器の表示などの数値に従って調整を」
ヒートショックやほかの疾病で意識を失い、そのまま熱中症に移行する場合もあるので、冬は特に注意したい。早坂さんの研究では「湯温40℃で10〜15分」が安全に温浴効果が得られ、潤い効果もあり、疲労も軽減する黄金比だ。
「寒い日は熱い湯に入りたくなりますが、42℃と40℃の湯では、後者の方が風呂上がりの体の温かさが持続します」
40℃で物足りない人には、温浴効果に加え、水道水に含まれる塩素を低減できる人気の炭酸ガス系の入浴剤がおすすめ。泡の刺激で湯温が高く感じられるので、40℃でも満足感がある。
また、入浴中に鼻まわりを洗ったり、腹式呼吸を行えば、ホコリやウイルスが流れ出て鼻腔の通りもよくなる。
「喉にはウイルスなど異物を撃退する線毛細胞があり、乾燥すると動きが悪くなりますが、湿気で活発になります。また、唾液中のIgA抗体(※3)という免疫物質が一時的に増えるというデータもあります。鼻呼吸はリラックス効果もあり、花粉症にも有効です」
大事なのは、疲れないこと。
「入浴する気力がないときは、シャワーより足湯の方が疲労軽減に効果があります」
(※3) IgA抗体とは、口腔内などにある粘膜免疫で、病原体にくっついて無力化する働きがある。IgA値が低くなると風邪やインフルエンザの罹患率が上がる。
入浴・前
■脱衣所を温めておく
■フタをせずに湯を張る
■浴室の床にシャワーをかけて室内を温める
■コップ1杯の常温の水(またはミネラル入り麦茶)を飲む
入浴・後 ■10分以内に全身保湿
■コップ1杯の常温の水(またはミネラル入りの麦茶)を飲む
正しく入ることも重要だが、時間帯も大切だ。最も良いとされているのは、食後30分~1時間は空け、就寝1時間半前が睡眠にベスト。
【1】脱衣所を温めておく
【2】フタをせずにお湯を張る(湯の温度は40℃がベスト)
【3】浴室の床にシャワーをかけて室内を温める
【4】コップ1杯の常温の水(またはミネラル入り麦茶)を飲む
【5】入る前にはかけ湯をする
【6】入浴時間は10~15分
【7】腹式呼吸を行いホコリやウイルスを出し鼻腔の通りを良くする
【8】浴室の電球色は落ち着いたオレンジ色にする
【9】入浴後は10分以内に全身保湿
【10】入浴後にコップ1杯の常温の水(またはミネラル入りの麦茶)を飲む
【11】入浴剤は入れた方がGOOD
【12】就寝1時間半前に入浴するのが睡眠にベスト
早坂信哉さん/温泉療法専門医
東京都市大学教授。生活習慣としての入浴を医学的に研究する第一人者。著書に『お風呂研究20年、3万人を調査した医者が考案 最高の入浴法』(大和書房)がある。
取材・文/佐藤有栄
※女性セブン2021年2月11日号
https://josei7.com/
この記事は、小学館『介護ポストセブン/執筆:佐藤有栄』(初出日:2021年2月10日)より、アマナのパブリッシャーネットワークを通じてライセンスされたものです。ライセンスに関するお問い合わせは、licensed_content@amana.jpにお願いいたします。