旧新町紡績所 新町工場
新町工場には、2015年7月に国の重要文化財(建造物)に指定された建造物があります。また、同年10月には、史跡名勝天然記念物の「史跡」としても指定されました。
『新町紡績所』(旧内務省勧業寮屑糸紡績所)は、明治10(1877)年10月20日、群馬県内に富岡製糸工場に次ぐ大規模な官営模範工場として開業しました。開所式には、大久保利通・伊藤博文・大隈重信等政府の重鎮が出席したという記録が残っており、工場の稼動に対する期待の大きさがうかがわれます。当時の日本では、生糸の生産時に出る屑糸は安い価格で海外に輸出するだけでしたが、すでにヨーロッパでは屑糸を有効に再利用していました。渡欧視察をした佐々木長淳が技術を習得し、帰国後、富岡製糸場等から出る屑糸等から絹糸(紡績絹糸)を作る旧内務省勧業寮屑糸紡績所(新町紡績所)を建設したことで、上州の地場産業である太織絹織物(銘仙)の材料として供給ができるようになりました。このことは絹産業においての歴史的意義も大きなものでした。
また、『新町紡績所』は、工場建設に当たり、企画から設計・建築まで日本人により建築された最初の本格的近代工場です。2014年に世界遺産(文化遺産)に指定された、国宝・国指定史跡・重要文化財(建造物)「旧富岡製糸場」とならび日本の産業近代化の原点といわれています。工場敷地内には、明治天皇が明治11(1878)年に北陸・東海道各地の巡幸のおり、奨励のため新町紡績所へ行幸された記念碑も残されています。 2005年に、国立科学博物館主幹(当時)の清水慶一氏らの学術論文「内務省勧業寮屑糸紡績所建物の現存状況について」が発表されたことで、新町工場の屑糸紡績所の歴史的価値が再評価されるきっかけとなりました。 清水氏らによる明治期に竣工された産業施設として現存する建造物の調査で、近代建築史、建築生産技術史において、新町工場内に残されていた明治から昭和初期の建物の多くが重要な研究対象になりうることが提起されています。
特に新町工場の敷地内の創業時の紬糸工場の木造建物は、外観が洋風なだけではなく、トラス式の小屋組構造であるなど洋風建築の技術が用いられたことが明らかになり、1873(明治6)年のウィーン万博に合わせて渡欧したヨーロッパの技術に直接触れた日本人技術者らの手で作られた日本初の洋式工場であることが示されました。この紡績所の設計・施工は、ドイツ人技師・グレーフェンの補佐を受けた初代所長の佐々木長淳と大工棟梁(とうりょう)の山添喜三郎ら日本人よるものであることも調査結果として記されています。外国人技術者の手で建設された旧富岡製糸場(富岡市)が開業してからわずか5年後に、日本人は洋風建築の技術を用いた設計・施工が可能になっていたのです。また、工場内の明治初期の建物である木造紬(つむぎ)糸工場では、工場施設にもかかわらず、軒下に寺社などで装飾に使われる「木鼻(きばな)」が確認できるほか、赤れんが倉庫の通気口を覆う唐草模様など、所々の装飾なども特徴的です。
2012年から高崎市によって、絹遺産として現存する建造物についての歴史的価値や今後の保存の検討のために本格的な調査が始まりました。
敷地内にある工場では、現在、アイスクリームや粉末飲料などの生産をしています。
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工場本館
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明治10年建築当時の建屋
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工場本館内部
新町工場に現存する歴史的建造物
明治10年創業時の木造工場を始め、明治30年代のレンガ倉庫、40年代の木造のこぎり屋根工場、大正~昭和期と思われる鉄筋コンクリートののこぎり屋根工場、変電室などの歴史的建物が数多く残っています。
創業時のコの字型木造工場の内側にノコギリ屋根工場が増設され、今の形になりました。
電灯がまだない工場では、効果的に光を工場内に取り入れるために、のこぎり屋根にして窓を多く設置しました。また、主に北側に窓を設置することで、光線の色が一日中変わらない環境で生産ができるということで、繊維関係の工場で用いられました。
また、同工場は2007年11月に経済産業省 によって「近代化産業遺産群33」の産業遺産に認定されました。
近代化産業遺産とは、経済産業省が認定している文化遺産のことです。2007年に33件の近代化産業遺産群と575件の個々の認定遺産が公表され、2008年には近代化産業遺産群・続33として、新たに33件の近代化産業遺産群と540件の個々の認定遺産が追加公表されました。
同工場は、「近代化産業遺産群33」のストーリー13『上州から信州そして全国へ』において近代製糸業発展の歩みを物語る富岡製糸場などの近代化産業遺産群の遺産のひとつとして認定されています。
参考文献
- 「鐘紡新町工場90年史」
- 「新町町誌」
- 清水慶一・中島久男・山口義弘 「関東地方内陸部の産業施設についての近代建築技術史を軸とする調査研究 -内務省勧業寮屑糸紡績所(現カネボウ食品工業新町工場)の建築について-」国立科学博物館研究報告E 第12号