咳が出るのはなぜ?
咳の種類と原因・症状、
長引く咳の対処法を解説 最終更新日 2023年11月30日

咳は身近な症状のひとつなので、そのうち治るだろうとはじめはあまり気にしないかもしれません。しかし、咳だけがずっと残っている、痰がからむしつこい咳が続いている、咳で寝られないなど、咳が原因で日常生活に支障が出ることも。

少しでも早く咳から解放されるには、咳の原因を知り、適切な対処をすることが大切です。ここでは咳の種類や原因、つらい時の対処方法について詳しく解説します。

どうして咳が出るの?

咳は、ほこりやウィルス、細菌などの異物が、体に入ってこないように働く防御機能です。気道内に侵入した異物は、気道にある咳受容体を刺激し、その信号が脳にある咳中枢に伝えられ、咳が出ます。異物のほかにも、気道に炎症が生じたり、気道に溜まった痰を出す為にも咳がでます。咳中枢は、大脳皮質によってコントロールされているため、心因性ストレスによっても発生することもあると言われています。

咳が出るメカニズム

咳が出るメカニズム

咳の種類と症状

咳に対処する際、持続期間や咳の仕方、痰の有無などで「咳の種類」を見極めるのがポイントです。

〈 症状持続期間と感染症による咳嗽比率 〉

症状持続期間と感染症による咳嗽比率

咳の持続期間から分類する

咳は「どのぐらい続いているか」という持続期間で、急性、遷延性(せんえんせい)、慢性の3つに分類されます。
咳の持続期間によって原因が大体推測できるといわれており、咳の持続時間が長くなればなるほど、原因に感染症が占める割合は少なくなってきます。

3週間未満の
「急性咳嗽(きゅうせいがいそう)

3週間未満の咳を「急性咳嗽」といいます。
その原因はかぜやインフルエンザなどウイルス感染症による急性上気道炎や感染後の咳がほとんどです。ウイルス感染による咳の場合、発熱、くしゃみ・鼻水、のどの痛み、頭痛、倦怠感などをともなうことで判断できます。

ただし、3週間以内であってもひどい咳が続いている、咳をして吐く、痰に血が混じる、高熱が続いている、膿性の痰が出るなどの症状がある場合には細菌感染や他の病気が疑われます。
胸のレントゲン写真を撮ったり喀痰検査(かくたんけんさ)などをおこない、原因を突き止めて適切な治療をする必要があるので、医療機関を受診しましょう。

2ヵ月未満の
「遷延性咳嗽(せんえんせいがいそう)

3週間以上8週間未満の咳を「遷延性咳嗽」といいます。
咳が長引く場合、マイコプラズマやクラミジアによる肺炎、百日咳などが疑われます。

長引くにつれて咳の原因は感染以外の可能性が増え、アトピー咳嗽や副鼻腔炎による後鼻漏のほか重い病気が隠れている場合もあります。
咳以外の発熱や胸痛、頬の圧迫感などの症状、咳が出やすい時間帯や状況、咳の仕方や痰の性状に気を付け、医療機関を受診するようにしましょう。

2ヵ月以上続く
「慢性咳嗽(まんせいがいそう)

8週間以上の咳を「慢性咳嗽」といいます。
慢性咳嗽は、感染が原因であることはほとんどありません。原因として多い病気は咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、感染後咳嗽です。

慢性咳嗽では血液検査、喀痰検査、X線検査やCT画像の結果から、推定される病気に対して治療を開始します。たとえば咳喘息が推定されれば、吸入ステロイドと気管支拡張剤で治療を開始し、2週間程度で効果があれば咳喘息が確定されます。

出典:診療ガイドラインup to date/Ⅱ呼吸器疾患 1咳嗽・喀痰

咳の仕方や音から分類する

咳は、咳の仕方や音などから2つに分類されます。痰の有無によって、咳の仕方や音が異なるためです。
痰をともなう咳は、分泌物の量が多いため気道が狭くなり痰を気道外に出すためにゴホゴホという音がする「湿った咳」になります。一方、痰がないか少ない咳は、コンコンやケンケンという音がする「乾いた咳」になります。

痰をともなう湿った
「湿性咳嗽(しっせいがいそう)

痰をともなう咳を「湿性咳嗽」といい、「ゴホゴホ」といった湿った咳が出ます。痰や鼻汁といった気道からの分泌物の増加(鼻汁たん)を体外に出そうとする反応です。
鼻・喉に炎症が起こっている状態であり、遷延性・慢性咳嗽で痰をともなう場合には副鼻腔炎や気管支拡張なども疑われるため、専門医を受診する必要があります。

コンコンと乾いた
「乾性咳嗽(かんせいがいそう)

痰が出ない・少ない「コンコン」と乾いた咳を「乾性咳嗽」といい、肺や気管に炎症が起こっている状態です。
気道内や肺の粘膜を保護する分泌物が少ないと、うまく異物を排出できず刺激となり乾いた咳がでます。乾性咳嗽の場合には、咳喘息、アトピー咳嗽、胃食道逆流症、感染後咳嗽が、咳の原因として考えられます。

熱がないのに咳が出るのはなぜ?

熱がないのに咳が出る場合、主に2つの理由が考えられます。

ひとつは熱が出ないかぜの可能性で、のどの痛みや倦怠感、鼻の症状など、何らかのかぜの症状がないかがポイントとなります。もうひとつは咳の原因が感染ではなく、咳が長引いて遷延性(せんえんせい)や慢性咳嗽になる病気の発症の初期の可能性です。

熱がないのに咳が出る可能性のある主な病気は以下のとおりです。

  • 咳喘息
  • アトピー咳嗽
  • 胃食道逆流症
  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  • 慢性気管支炎
  • 肺がんなどの悪性疾患
  • ACE阻害薬の服用など

咳の原因となる代表的な病気

咳の原因となる代表的な病気について、その特徴を説明していきましょう。

咳喘息

咳喘息は、8週間以上咳が持続する慢性咳嗽の最も多い原因です。痰をともなわない乾性咳嗽のことが多いです。
就寝時や深夜、早朝に咳が出ることが多く、季節ごとに発症する方や1年中症状のある方もいるようです。かぜ、冷気、喫煙、雨天やじめじめした天候、花粉や黄砂の飛散などで、悪化することがあります。

アトピー咳嗽

アトピー咳嗽は、8週間以上持続する慢性咳嗽の原因のひとつで、のどのイガイガ感をともなうのが特徴です。
症状は咳喘息と同様、胸がぜいぜいすることや呼吸困難はなく、痰をともなわない乾性咳嗽のことが多いです。

就寝時や深夜、早朝に咳が出ることが多く、エアコン、喫煙、電話での会話、運動、精神的緊張などで悪化することがあります。喘息以外のアレルギー疾患がある方も多いです。

副鼻腔気管支症候群(ふくびくうきかんししょうこうぐん)

副鼻腔気管支症候群は、上気道の副鼻腔炎に下気道の気管支炎などが合併した状態で、8週間以上持続する慢性咳嗽のひとつです。

慢性咳嗽の原因としては、咳喘息やアトピー咳嗽に次いで頻度の高い病気です。呼吸困難はなく、痰をともなう湿性咳嗽です。
副鼻腔炎の症状として、鼻水やのどの後ろに鼻水が流れる後鼻漏(こうびろう)、咳払い、鼻やのどの奥に粘りの強い分泌液などがあります。

胃食道逆流症(いしょくどうぎゃくりゅうしょう)

胃食道逆流症は、胃酸や胃の内容物が食道に逆流して、胸焼けやげっぷ、咳払い、のどの痛み、声がれなどの症状が起きる病気です。乾いた咳が8週間以上持続する慢性咳嗽の原因のひとつです。
乾いた咳に、胃食道逆流症の症状をともないます。夜間の咳はないか、あっても少ないことが多い傾向にあります。

感染後咳嗽

感染後咳嗽は、呼吸器感染症、いわゆるかぜに引き続いて起こる遷延性・慢性咳嗽のひとつです。かぜの後に咳だけ残っている状態で、遷延性・慢性咳嗽の原因と考えられる病気が他になく、症状が自然と良くなる傾向であることが特徴です。

感染後咳嗽の原因は一般的なウイルス感染が最も多いですが、百日咳、マイコプラズマ感染症、気管支喘息などに続いて起こることもあります。

長引くつらい咳、どうしたらいい?
原因と治療法

長引く咳の原因となる代表的な病気に対する治療法を紹介します。「咳の原因となる病気」と合わせてご覧ください。

長引く咳の原因となる病気 主な治療法と治療における注意など
咳喘息 ・吸入ステロイドや気管支拡張薬の吸入や飲み薬で治療
・喘息に移行することもあるので、医師の指導のもと治療する
アトピー咳嗽 ・第1選択薬は抗ヒスタミン薬
・吸入ステロイドも効果的
・気管支拡張薬は無効(咳喘息との違い)
副鼻腔気管支症候群 ・少量の抗菌薬の長期間服用
・去痰薬(きょたんやく)を併用
胃食道逆流症 ・胃食道逆流症の治療
・胃酸分泌を抑える薬と消化管運動機能改善薬を服用
・減量などの生活習慣改善
・アルコール、高脂肪食など食生活の見直しなど
感染後咳嗽 ・自然に回復することが多い
・咳止めや抗ヒスタミン薬などの風邪薬

つらい咳を和らげるために自分で
できる対処法

咳は体力を消耗するため、長引くと睡眠不足になったり、日常生活に支障が出ることがあります。つらい咳を和らげて少しでも楽に過ごすために、自分でできる対処法を紹介します。

寝るときの態勢は横向き

寝るときには、気道が確保できる横向きがおすすめです。
うつ伏せや仰向けより、夜間の咳を和らげることができます。また、クッションなどを重ねて上半身を斜めに立てるようにすると呼吸が楽になり、鼻水や痰がのどに流れにくくなります。

のどや胸を温める

のどが冷えていると、気管支の粘膜が刺激に敏感になって咳が出やすくなります。首にタオルやネックウォーマーを巻いて寝たり温かい飲み物を飲んだりして、のどを温めてみてください。

濡れマスクで加湿する

濡れマスクには、のどや鼻を潤して乾燥を防いだり、冷気の刺激から気道を守ったりする効果があります。不織布のマスクに濡らしたガーゼをはさんでもよいでしょう。

水分やはちみつでのどを潤す

のどの乾燥が刺激となって咳を引き起こすことがあるため、少しずつ水を口に含みのどを潤しましょう。
また、水分を摂ると痰が薄まって吐き出しやすくなるメリットもあります。水分は、冷たいものは避けて、室温や温かい飲み物にしましょう。はちみつには保湿の効果があるため、スプーン1杯程度のハチミツをお湯に溶いて飲むのもおすすめです。

漢方薬を活用する

漢方医学では、咳や痰の症状だけに着目するのではなく全身状態を改善することで、咳や痰を和らげることを目指します。
また、適切な漢方薬を選ぶには、のどや気管支の状態が乾燥しているのか、湿潤しているか、乾性咳嗽か湿性咳嗽かなどにも注目します。

ここでは、咳や痰に効果が期待できる漢方薬を紹介します。

麦門冬湯(ばくもんどうとう)

麦門冬湯は、麦門冬 (ばくもんどう)、粳米 (こうべい)、大棗 (たいそう)、半夏 (はんげ)、人参 (にんじん)、甘草 (かんぞう)の6種類の生薬が配合された漢方薬です。

痰が少なく、のどが乾燥して強くせき込む乾いた咳に体の中から潤いを与えることで、呼吸器やのどの乾燥を改善し咳を和らげることが期待できます。

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竹茹温胆湯(ちくじょうんたんとう)

竹茹温胆湯は、竹茹 (ちくじょ)、黄連(おうれん) 、柴胡(さいこ) 、半夏(はんげ)、陳皮(ちんぴ) 、生姜(しょうきょう) 、枳実(きじつ)、桔梗(ききょう)、 香附子(こうぶし)、茯苓(ぶくりょう)、麦門冬(ばくもんどう)、人参(にんじん)、甘草 (かんぞう)が配合された漢方薬です。

長引く咳や痰でよく眠れなかったり、回復が遅れて胃腸の働きが衰えていたりする時、消化管の働きを助けて余分な水分を排出することで咳や痰を鎮める効果が期待できます。
神経の高ぶりを鎮める効果もあるため、良く寝られるようになり、回復を助けます。

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五虎湯(ごことう)

五虎湯は、麻黄 (まおう)、杏仁(きょうにん)、桑白皮(そうはくひ)、石膏(せっこう)、甘草(かんぞう)の5種類の生薬が配合された漢方薬です。

黄色い粘り気の強い痰が出て強くせき込む激しい咳に、気管や気管支、のどの炎症を抑えて咳や痰を鎮めることが期待できます。

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まとめ

咳が出るのは、口や鼻から吸い込んだウイルス、ゴミなどの異物を排除するための生体防御反応です。咳の治療は、原因となる病気に対して適切な治療をする必要があるため、咳が長引くときには医療機関を受診することをおすすめします。

適切な治療に加えて、咳を少しでも楽にする方法もあります。漢方薬は長引く咳や痰が絡む激しい咳などに、体の水分を整え炎症を鎮めることで咳や痰を和らげることが期待できます。普段の体力と咳の状態に合わせた漢方薬を選ぶようにしましょう。

出典:診療ガイドラインup to date/Ⅱ呼吸器疾患 1咳嗽・喀痰

小谷敦子

薬剤師免許取得後、病院薬剤師として就職。ライフステージの変化にともない、調剤薬局の薬剤師とメディカルライターとしての実績を積んできた。東洋医学専門診療科のある大学病院の門前薬局では、漢方薬の処方に対する数多くの服薬指導を経験。

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