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日本でもライフイベントに関わらず継続的に働く女性が増えてきました。
しかし、女性特有の健康課題である月経前症候群(PMS)、更年期症状、不妊治療、婦人科系のがんなどによって、離職や休職に追い込まれてキャリアを諦めざるを得ない女性も多いといいます。
経済産業省が2024年2月に発表した調査結果によると、このように女性特有の健康課題によって働けなくなることによる経済損失は3.4兆円になると試算しており、そのうち更年期症状による離職・欠勤・パフォーマンスの低下を感じた人は合計で約1.7兆円と約50%を占めていることが分かりました。
出典:経済産業省
女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について
このように女性が女性特有の健康課題でキャリアを離れることは、自身だけでなく社会全体にとっても損失であると思われます。
この記事では、更年期症状を抱えていても女性が継続的に働くことができるよう、女性自身や企業が取り組むべきことについて考えてみたいと思います。
更年期に現れる様々な不調
更年期に現れる不調には、自律神経の乱れから引き起こされる「身体的不調」「精神的な不調」に大別できます。
身体的不調
代表的な症状は以下になります。
- ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ):汗が止まらない、突如体が熱くなる
- 動悸・息切れ:激しい運動をしたわけでもないのに、急に胸がドキドキしてしまう
- むくみ:以前よりもむくみやすくなる
- 月経異常:月経周期・期間の乱れ、経血量の異常
- 肩こり・腰痛・背中の痛み
- 手指の痛み・しびれ・変形
- 胃もたれ・胸やけ・吐き気
- 下痢・便秘
- のどの乾き:異常に喉が乾く、食べ物を上手く飲み込みにくくなる
精神的な不調
- うつ:やる気がおきない、物事に興味を持てない、自分はダメな人間だと落ち込んでしまう
- イライラ:些細なことが気になってしまう、怒りっぽくなる
- 不眠:夜中に何度も目が覚める、熟睡した感じがしない、寝付きが悪い
突如現れる「精神的な不調」
更年期症状の1つ「精神的な不調」について、少し考えてみたいと思います。
冒頭の経済産業省の調査結果から試算される労働生産性の損失のうち「パフォーマンスの低下」は約5,600億円となっており、これは更年期における女性の精神的不調にあたる「仕事がつらい」「やる気が出ない」「仕事が覚えられない」といった仕事のパフォーマンスに直結する不調に該当します。
その他に「欠勤」が約1,600億円、「離職」にいたっては約1兆円と試算しています。
出典:経済産業省
女性特有の健康課題による経済損失の試算と健康経営の必要性について
もし、あなたの職場で「やる気が出ない」「仕事がつらい」「仕事が覚えられない」なんて発言している人がいたとしたら…?
その時、あなたはどう思いますか?
「サボっている」「職場の士気を下げる」「頑張りが足りない」「大変なのは当然だ」
といった批判的な感情を抱く人が多いのではないでしょうか。
これまで「やる気が出ない」「仕事がつらい」「仕事が覚えられない」のようなことがなかった人が突然そのような発言をしたとしたら、その人が更年期真っ只中にいる可能性は十分にあるのです。
放置せずに、「つらい」を伝えよう
では、更年期に現れる心身の不調とどう向き合っていけば良いのでしょうか?
日本では更年期に対してネガティブなイメージを持っている方が少なくありません。また正しい知識を知らないために誤解していることも多いのではないでしょうか。その背景には更年期に現れやすい症状には個人差があり、周囲の人に理解されにくいことも影響しているかもしれません。
ですが、症状の違いや程度は違っても更年期は誰もが通る道なので、思い切って周囲に打ち明けてみると「私も同じ症状で悩んでいた」「私は◯◯の症状が出ている」といった話を聞くことができるかもしれません。お互いに症状を共有することで、たとえ同じ症状ではなくても「自分だけがつらいわけではない」と自己を肯定することにも繋がるでしょう。
また一人で抱えて溜め込むことや我慢すること自体が、ストレスになり症状を悪化させる可能性もあります。一人で抱え込まない、溜め込まない、我慢し過ぎないことも大事です。
普段から友人や家族と女性特有の悩みを話しやすい雰囲気を作っておくと、打ち明けることへのハードルも下がり、気軽に話しあえるのではないでしょうか。
男性にとっては、女性特有の症状を“自分ごと”として捉えにくいかもしれません。もし更年期にあるパートナーや職場の身近な女性が「つらい」「やる気が出ない」のように訴えた時は、「これまでと同じようにできなくても大丈夫」「この時期の女性特有の症状なのだ」と受け止めることから始めてみると良いでしょう。
一方で、女性自身も更年期症状に対して「正しい知識」を身につけることも大切です。
ネットに溢れている多くの情報には、不確かな内容も含まれているかもしれません。「知らない」「分からない」ことが先行して不安だけが募ってしまうと、家族や職場に対しても正しく理解してもらいづらくなります。正しい情報を知ることで、むやみに不安感が増幅することを軽減することができます。
プレ更年期の世代やプレ更年期を控えている世代にとっても、いずれ通る道ですから、人生の少し先を歩む女性たちの症状を知りお互いにサポートする思いやりを持って接することで、人間関係を良好に保ち職場でも安心して働くことができるでしょう。
周囲はどのように向き合えば良い?
企業の実態
冒頭で紹介した経済産業省の資料によると、女性の約7割が上司や同僚の理解を求めており、また休暇制度や時短勤務など仕事と両立するために十分な支援を得られていないと回答しています。
一方で企業側は、「何をすればいいか分からない」との回答が約3割と最も多く、「当事者である女性から症状を聞く手段がない」「女性が話したがらない」「セクハラにならないか不安がある」との回答がそれぞれ2割弱ずつであることが分かりました。
この回答の背景には、健康課題というプライベートな内容かつ個々で症状が異なることだけでなく、上司や同僚がまだまだ男性が多く女性特有という特異性に対してヒアリングや支援を行う難しさがあるように感じます。
企業に必要な取り組み
次の3つの取り組みをご紹介します。
① 更年期症状を正しく理解する
② 働き方を整える
③フェムテックの活用
更年期症状を正しく理解する
ライフイベントに関わらず働く女性が増えてきているものの、厚生労働省が令和4年に公開した調査結果によれば、管理職等に占める女性の割合は部長相当職では 8.0%(令和3年度 7.8%)、課長相当職では 11.6%(同 10.7%)、係長相当職では 18.7%(同 18.8%)となっており、女性管理職の割合は業界・業種にも寄りますが依然として多いとは言えないのが現状です。
出典:厚生労働省
令和4年度雇用均等基本調査
裏を返せば男性管理職の割合が係長相当職でも80%超と、圧倒的に男性が占めており、女性の更年期症状を理解しづらい下地があると考えるのが自然ではないでしょうか。
国・企業ともに女性管理職の数を増やす取り組みを推進していますが、その割合を即増やすことは容易いことではないでしょう。
だからこそ、すぐにでも出来る取り組みとして、今圧倒的に管理職を担っている男性たちが「更年期に現れる症状はひとりひとりで異なること(個人差がある)」を前提に、先に述べた様々な症状が現れることを正しく理解することから始めることが重要です。正しく知識を身につけることができれば、更年期にあたる女性に対して腫れ物に触るように身を置くことも軽減されるでしょう。
またこれまで「更年期の症状」を話題にすることが「タブー」と捉えられてきた背景もあるため、男性側から積極的に女性に症状をヒアリングすることは難しいでしょう。例えば半年に1度の割合で、健康面での不安や不調に関するアンケートを社内で実施するといった試みも良いかもしれません。
働き方を整える
更年期の不調が原因による「離職」は、女性自身も企業側も可能な限り避けたいところです。そのためには企業側が柔軟な働き方ができる環境を整える必要があります。
フレックス制度、時短勤務、リモートワーク、リフレッシュ休暇と同様に更年期休暇のような制度が整っていれば、女性が継続して働くことができることを後押しできるでしょう。
フェムテックの活用
フェムテック(Femtech)は、「女性」を意味する「Female」と「技術」を意味する「Technology」をかけ合わせた造語で、月経や妊娠、出産・育児、更年期などの女性特有の健康課題をテクノロジーで解決するサービスやプロダクトを指します。
日本ではまだまだ浸透しきれていませんが、海外では「フェムテック」「フェムケア」の認知も進んでおり、これまで「当たり前」のこととして我慢してきた「不快感」や「つらさ」を軽減するためのアイテムも多彩に開発されているようです。世界の市場規模で見るとアメリカのフェムテック市場が圧倒的に大きいようですが、これはアメリカが日本とは異なり医療費が高いことから、普段から自身の健康管理への意識が高いことが起因しているかもしれません。
経済産業省では、フェムテックを活用した働く女性の就業継続支援として「フェムテック等サポートサービス実証事業費補助金」に係る補助事業者(執行団体)を公募しており、企業が女性特有の健康問題を支援することによって人材の多様性を高め、中長期的な企業価値の向上を目指しています。
出典:経済産業省
フェムテック等サポートサービス実証事業HP
企業側の取り組みが進んでいくことも重要ですが、女性自身も「フェムテック」「フェムケア」を特別なことだと意識し過ぎずに、「今、こういう症状がつらい・不快」だから「このアイテム・サービスを使ってみたら軽くなるかもしれない」のように、手軽に試してみるのも良いでしょう。身構えずに、気楽に捉えるくらいの姿勢で向き合ってみてはいかがでしょうか?
女性だけでなく、社会全体が変わっていくことが大切
日本で「更年期」に対して理解が進んでいないことやそのサポート体制が社会として整備されていないことは、女性が継続的に働くことを阻む一因となっており、それは社会全体にとって損失であり勿体ないことでしょう。
女性だけでなく社会全体が「更年期」に対する意識を変え、正しい知識を身につけていくことは今すぐ取り組めるはずです。また合わせて、「更年期特有の不調」を寛容に受け止める環境や女性自身が自らその不調を打ち明けていくことも重要ではないでしょうか。
メノテックライフでは、更年期に関する研究や生活者アンケートの結果を多角的に分析し、更年期に乱れやすい症状に注目して独自に定義した「虚-実、寒-熱、湿-燥」3軸・6要素のバランス状態を判定する「バランス状態チェック」を考案しました。3軸のバランス状態を組み合わせた虚寒湿や実熱湿など8タイプの中から、今の自分の状態を判定できます。
今まさに更年期の真っ只中にいる方は、自分のバランス状態を知ることで、更年期と上手くつきあっていく第一歩を踏み出してみませんか?